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2017.01.19 1月号の歌
年明けうどんケーキ2017年となりました。今年もどうぞよろしくお願いします。
帰省中には年明けうどんとやらをいただきました。でも年初から珍しく風邪をひき、大したことはないものの長引き、いつまでもぐずぐずと頼りない感じです。そして誕生日も過ぎおそろしいことにまたひとつ年をとりました。
仕事もありがたいことに継続中とはいえ態勢がいろいろと変わりなかなかに波乱の年明けです。確定申告も迫る中なにかと慌しいです。頼まれている原稿も何故か締切が重なっているものが4つもあるのですが、いったいどうなっているのでしょう、というか書けるのか…。といったところの酉年です。

「青南」1月号(第20巻第1号)掲載
◆作品Ⅰ(自選歌)より
 リハビリのバスの迎へを待ちて居りの義務遂行の思ひとなりて    清水 房雄
 今日も又挨拶にこし鴉一羽嗄れし声して路地奥に消ゆ      故 清水  香
 われを乗せボンベを載せて弟はMRIに伴ひくれぬ         伊藤 安治
 カーテンをあければガラス戸を流れゐる夜半の雨の烈しかりけり   逸見喜久雄
 仰臥して見る青き空近々と雲はかがやきて北に流るる        今福 和子
 いつのまに誰を真似たるわが歌かここに今月嫌悪の七首       堀江 厚一
 けふの日も傾きはじめし街の照り我はしばらくの時を包まる     梅沢 竹子
 しづかなる冬至と思ふはや暮れぬ八つ手に低き虫柱立つ       根本  正
 裏山に激しき風の音聴けばいつしか北の方より吹きぬ        伊藤 和好
 葡萄園に葡萄を買ひて欄干の擬宝珠の赤き大橋わたる        森田  溥
 久々に会ひたる姉の言ひたりし吾より先に死なないでねと      伊吹 泰子
 金木犀ひと度散りて再びの花にぎはしく香りを放つ         上柳 盈子
 脚立たて蕾があるか見てみようそんなこと今日は思ひてをりき    内田 一枝
 ゆくりなく野火を見てをり風吹けば赤き炎の飛びつつゐたり     海野 美里
 夕暗む峡の束の間西日差し芒きらめく波打ちきらめく        尾形 冴子
 冬近くやうやくサンマ出廻ればバリ島の塩まぶして焼きぬ      長田 光枝
 蹲る背に秋の日は温かし暫く蟻のいそしみを見る          鈴木  功
 癌の後やがて五年を生き延びて一歩一歩に夜が明けてくる      高木  正
 みそひとにをさめてゆけばそれなりに詩とも見えたり甘えてきたり  竹内 敬子
 大胆に恋の歌詠む万葉集の人らを思ひ寝むとぞする         牧野  房
 静かなる山の畑の夕暮れに一摑みの韮我は摘みたり         山本 靖彦

◆作品Ⅱ(6名の選者による選歌欄)より
 幾つまでこぎ得るものか坂道を試さむとして今日も自転車       窪田 順子
 八十九歳未だ若輩と思ふ間に界隈男子の最年長といふ         横山 昭夫
 蔓伸びし長芋畠を境とし日当たる畝と日陰の畝と          佐々木知津子
 夏と秋のあはひを行きつ戻りつの夕べたしかに虫の音聞こゆ      北見 紀子
 九十の誕辰祝ひ孫よりの祝ひの届くとらやのようかん         山本しづこ
 作業すみ鍬を担ぎて帰る時いつも「家路」を歌ひたくなる       如月 生子

◆作品Ⅲ(6名の選者による選歌欄)より
 通りゆく人は足止め褒めくるる名古屋の朝顔竪縞模様         荒木 英市
 惜しみつつ十年乗りし車から新たな出発新車に乗りて         堤  恒平
 指に押すボタンに車停まるべし七台とめてわれ横断す         板橋のり枝
 秋の日の傾き残る庭隅に照らされてゐるムラサキシキブ        東海林諦顕
 しみじみと独りの我を寂しめば月の光はこころ貫く         小濱 靖子
 朝の光障子にさして木の葉影魔物に見える仏に見える        菅生 綾子
 土つきしわが手の形の軍手にて雨上りの庭の雑草を抜く       星 津矢子
 満開のベゴニアの鉢買ひて来ぬ庭先に置き何度でも見る       金子喜代子
 長雨に重くしだるる白萩の重たき心その道をゆく          井深 雅美
 すすき活け団子飾りし日は遥かビルの真上の月ひとり見る      小久保基子
 背を丸めベッドに腰かけ新聞をいつまでも読む母の晩年       藤井 博子
 喜びも束の間にして幻か心はかなし十六夜の月           横井 勝子
 麻痺の手足癒ゑねば家へ帰れないさうかさうなんだ夫が声に出す   田中 芳子
 路地の角三つ曲れば覚えある小さき十字架屋根低く立つ       紙谷 孝代
 孫が生まれ稲も稔りてありがたく賽銭を増やし今月の祈り      江木 正明
 何も彼も輝きて見ゆ入選の知らせ受けたる朝のわが町        寺谷 和子
 紫の野菊一本持ち帰り出窓に生けて遅き昼餉す           福田 美蔭
 昨夜からの雨に濡れたる峡の木々潤ひゐるはわが心かも       藤井冨美子
 白蓮の伸び盛る枝剪りたればそれぞれの先に莟ふくらむ       山本名嘉子
 新たなる務めは孫の世話なれば精進してはさらに精進        池内  保
 何するでなく起きてをり眠るのが惜しい気のしてただ起きてゐる   宮本 康子
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2016.12.17 12月号の歌
山茶花雪だるま12月です。寒いです。バーゲンで新しいブーツを買いました。
先日仕事先の忘年会がありました。25人ほどが集まり、にぎやかな会でした。一年前は数人だったのにいつのまにこんなに人が増えたのだろう。仕事が増えたため人を増やしたのか、人が増えたからそれに見合う仕事を確保しているものか、…とりあえず増収みたいで、増益かどうかは知らず、といったところ。まあフリーランスなので、会社がもうかるほどに個人の懐に入ってくるわけじゃない。社会保障は何もないし、と思いつつそれぞれと喋り飲み、つい飲み過ぎて久しぶりに二日酔いになりました。しんどかったな…。でも楽しかったな。きっと最年長の私は何となく労わられているのだろうなと感じつつ、それもまあいいかって感じです。

「青南」12月号(第十九巻第12号)掲載
◆作品1(自選歌)より
 慌しく坂登りゆきし少年は何か頷きつつ戻り来ぬ          清水 房雄
 もう少し近づきくるを持ちてゐる思ひがけぬ雷遠く聞えて    故 清水  香
 憎みつつ生くるは憎まれつつ生くるよりかなしからむと思ひつつ寝る 堀江 厚一
 いつも来る鳥とは違ふ鳥は何夕くらみ来し庭石の上         豊田 純子
 長生きをしませうと今年九十になりたる人に言はれて帰る      梅沢 竹子
 思ってはならぬ思ひもあるものを思ひてこよひ眠れずにをり     内田 一枝
 光あらき午後の高原(たかはら)ホース引き人はホテルの外壁を洗ふ 佐々木良一
 我が庭にほととぎすの花咲きいでてすこやかな老に感謝して生く   庄司ゑい子
 子供の数極端に減りたる町内に神輿担げる人を数ふる        能見謙太郎
 かなしみを詠み哀しみを耐へ凌ぐおのれの歌が己を支ふ       山本 吉徳
 黄の花を赤くまだらに染めあげてカンナは晩夏の光の中に      森永 壽征
 鴨川に鷺一羽立つ鷺の白が大好きなのと言へる人あり        前川 昭一
 挑戦をするも最後の登山かと踏み登りつつ夫の言ふ声      故 今泉  操
 気後れとためらひの中に漂ひて可哀想なる私の本音         戸田 紀子
 半分くらゐは話分って幼子と土手の日向に電車待ってゐき      根本  正
 稀々に予定なき日に過ぎてゆく退屈しながら雲などを見て      伊藤 和好
 一時間の老人体操こなしたり何かにつけて数へるわが年       副島 浩史
 くれなゐの雲の重なりにかりそめの浄土を思へば夕風の立つ     牧野  房
 霧こめて峡の稲の重々と熟れて沈めり雨の降る日を         尾形 冴子
 おれたちの未来はせいんせいも踏む未来共に生きよと背を押す今も  瀧本 慶子
 こにしき草おおにしき草にしき草ここに草あり靴の跡あり      竹内 敬子
 台風の近づく予報夕刊のそれぞれビニール袋に包まれてくる     上柳 盈子
 汝の墓に手を置き思ふ嫁ぐ日の笑顔幼き時の泣き顔         青木 良雄

◆作品2(6名の選者による選歌欄)より
 ズッキーニをゴーヤをオクラを培ひて食する日々ぞ健やかにして   池本 捷子
 炭坑節を幽(かす)かに歌ふ夫の辺にわれの心は少し安らぐ     水谷 節子
 「髪も爪もよく伸びるのよ」と微笑みし母の爪切る敬老の日     井上由美子
 泉まで夕べの散歩三十分茜の空の鎮もりてゆく           藤原 亘子
 誓ひたる無事故運転四十三年また誓ひつつ免許更新す        荒木 英市
 穏やかな晴天続きわが待てる秋の彼岸も間近になりぬ        吉田 寿美
 朝光のまっすぐ届くひとところ自転車のをみなふいに煌めく    佐々木知津子
 熱く燃え吾は若者妻二十歳実現している娘三人           和泉 南雄
 満月の窓は明るし廊下の灯消して虫の音聞きつつ眠る        野口久仁子
 相合はぬ事も良しとし夫と我合はせぬままに年重ねゆく       𠮷町 博子
 裏白きチラシに母の用あれば書きくれしメモのなほ捨てがたし    西谷 時子
 申告書にマイナンバーを記入する十二桁ある長き数字を       鈴木 晃子
 仏飯を供へて妻と向き合へば一生懸命生きむと思ふ         桐山 五一
 明日の朝つばめの群はいっせいに南に向けて飛び立つといふ     畑 佐知子
 中海にボート一さう浮びたり二人の影を夕日が包む         平井 和枝
 塾の生徒に教へる妻の声がする我には掛けぬやさしき声が      板谷英一郎
 雨欲しと思ひしことも罪のごとし水害映像の前に額伏す       井上 保代
 昼寝する部屋にかすか気配ありて九月の風の通り過ぎたり      藤井冨美子

◆作品3(6名の選者による選歌欄)より
 声聞ゆ顔も見ゆるよ麻酔より醒めて再び命ありたり         鹿庭れい子
 少しづつ降車してゆく終バスの吾降りしあとは運転手のみ      釜野 清信
 一枚の葉書いくたび読みにしか秋となりゆく光の中に        川上 幸子
 子の在らば歌を詠むことなかりけり欠詠せずに二十余年過ぐ     中村 久子
 一文字に蛇の横たふわが庭に残りの夏のひかり眩しき        西風 諒子
 母の背を摩ればいつしか眠りたり寝息確かめ病室を出づ       丹  亮子
 風さやか彼岸花咲く朝の道又振り返り坂道のぼる          藤代 幸子
 敬老の日ひら仮名らしき字を添へて幼は吾に手紙くれたり      宮本ナルミ
 子が来れば砂糖と塩を間違へし煮物の失敗笑ひて告げぬ       向井よし子
 新車買ひ十年共に生きようと誓ひしわれら十年乗りぬ        堤  恒平
 一歳と八十八歳の二人連れ車の下の猫を見にゆく          南 美智子
 降ってくる前に庭少し片づけむ読みゐし本を置きて出で来ぬ     河野 政雄
 朝顔のこぼれ種より芽ばえ咲く秋の初めに楽しみ残る        齋藤しづ子
 僅かづつ妻と分け合ひ栄養補助食品なるものを試みに飲む      髙橋 源良
 海草の甘き香りの風が来る唯起きてゐる夏の夜の窓に        渡辺  涓
 風邪に臥す部屋の障子に藤の葉の写りて影絵のやうにゆれをり    小湊宜誌子
 大雨の予報あれども逸れてゆく稲田は今が水ほしい時        佐藤テル子
 望みゐし悠々自適も安からず為すべきの無く今日も終りぬ      森合 満江
 若き等の考へどほり椎と樫と八本伐りて家中明るし         細野 幸江
 朝露の光る芝生に五十人朝の体操ここちよかりき          松田 玲子
 桐の花風に吹かれて靡きをり陸前高田の海を遥かに         三輪 武士
 青きままの柚子を絞りて食べてゐる今年のサンマ小さき秋刀魚    伊藤 章子
 川沿ひに真っ直ぐ伸びて咲きし花黄の曼珠沙華おはやうお早う    金子喜代子
 僕はもう使はないからと故里の地図を父は渡しくれたり       出口 祐子
 火にまみれ煙にまみれ黒々と古びし小さき鰻屋旨し         北見 法子
 大蜥蜴散水の虹をくぐりぬけ石菖の中に隠れゆきたり        板橋 節子
 山鳩の鳴く声聞えくる真昼少し遠出をせむと出で来し        大川 文子
 誘はれる事なく誘ふ事も無し病みて籠りて一年は過ぐ        池谷 久子
 白内障の手術かなはぬ身となりて夜の読書はむづかしくなる     山本しづこ
 台風のそれて棚田は黄に熟るる刈取り間近の静けさ満ちて      前田つる子
 思ひがけぬ心疾患となりたるも野菜畑が見たくなりたり       寺田 シズ
 食欲もなく一束のソーメンを卓に取り出し眺めゐる午後       谷口嘉代子
 樹形よきポポーに数多実のつきて熟れて落ちつつ香りを放つ     安原 律子
 思ひ立ち歩けば何かに当るかと少し気負ひて靴はく今朝は      堀田三重子
 日焼けせし鎖骨のくぼみ少年の健やかなるは少し憎らし       小川瑠璃子

2016.11.13 11月号の歌
幸村像抜け穴11月です。寒くなってきました。今日はやっと扇風機を片付けて、ホットカーペットを出しました。なかなかの季節替わりです…。
昨日友人と真田丸跡地を少し歩きました。なんとその夜ブラタモリでタモリが同じところを歩いていました。見てから行きたかったなあ、と思いましたが…。幸村像のあるところはずいぶんの人が見学していました。ほかにもいくつか足跡があるのですが、観光地になっては困る神社などはひっそりとして見学者を拒んでいる、あるいは何の説明書きもなくここで合ってるのか?というところもあります。住宅街で小さくひっそりとある場と、駅前の幸村押し店の多さにギャップを感じ大変面白かったです。

「青南」11月号(第十九巻第11号)掲載
◆作品1(自選歌)より
何の事かと思ひて聞きて居たりけり暑き一日を心彷徨(さまよ)ひ  清水 房雄
気がかりな野牡丹の様子聞きたるに立ってゐるよと素っ気なく言ふ 故 清水 香
酸素カート押し来て息を継ぎゐるを見てゐし女杖ひきて去る     伊藤 安治
夕暮の雑木の山にとびぬけて高き一本の杉の交れり         逸見喜久雄
丸屋根の回教の塔青き葡萄明日をも知らぬ老のあくがれ       今福 和子
死に時と思ひし幾度かありたれど生きて面倒かけてをります     堀江 厚一
ただ一つ取り残したる柚子の実を夏至の湯船に浮かべてみたり    豊田 純子
若き夫婦或は日傘の人ら行きラベンダーの花にしづかなる風     佐々木良一
人も来ず電話もかからぬこの日暮れ立つ面影の常に若しも      高木  正
キャンデーの包み紙のばし鶴を折るただ黙々と夫は鶴折る      佐藤 東子
若者はさらに励むと夢を追ふ成るも成らずも夢は自在に     故 今泉  操
気後れとためらひの中に漂ひて可哀想なる私の本音         戸田 紀子
唐黍の雄花に風の吹き通りいのちの花粉とめどなく降る       根本  正
つんつんと捩花芝生に日毎伸び刈らるるまでの幸せにゐる      牧野  房
穂は長く垂れ初めにつつまだ青き峡田にほへり暑き八月       尾形 冴子
背の痛みそこではないと言ひ出せずやみくもなりし夫の手のまま   長田 光江
今朝もまた仲良し雀か見上げたる子供のやうな夫の呟き       瀧本 慶子
樟の木陰の地面に腹をあて涼みてをりぬ八月の鳩          竹内 敬子
電池替へ動き始めし古時計郭公の声にて時告ぐるなり        長弘 文子
子と我の暮しを隔つ半間の廊下の向うにカレーが匂ふ        松家 満子
大き冬瓜もらひ来にけりやうやくにわが為に煮る日々となりたり   伊藤登久子
亡き夫の選びてくれし帽子なり折々に出し眺めてはしまふ      海野 美里
平成の二十八年暑き夏伊方原発再稼働する             山本 靖彦


◆作品2(6名の選者による選歌欄)より
ふる里の海ま青なり砂浜を病む脚の夫少しづつゆく         羽仁 和子
口籠る言葉聞き分け相槌を打てば和らぐ夫の表情          水谷 節子
嬉しくていとうれしくて眠られずかくまで喜び乏しかりしか     十河 滋子
たはやすく農は変らず田草取り妻と競ひて雨中につづく       髙橋  博
緑濃きいちゐの庭をそぞろゆく肺炎はしばらく静まりてゐる     横山 昭夫
神棚の榊の水を替へしとき霧はれあがり朝日さしきぬ        金沢 宏光
クーラーの効き過ぎてゐる理科室に熱き緑茶を両手に包む      出口 祐子
やける足を畳の上に投げ出してああ気持ちよしこれで眠れる     豊田房太郎
若きらに付いていけざる我にして青田そよぐを見放けて憩ふ     小久保基子
手の指を広げたやうに稲株の脹らみてゐる朝の静まり        前田つる子
湿原の木道を行きてヤブサメの地鳴き淋しくわれは聞きたり     中津留初枝
土分けて黒豆の芽の出でて来ぬ天辺に黒き殻を脱ぎつつ       紙谷 孝代
白桃は匂ひはなちて豊かなり小暗き部屋の箱のなかから       平尾 輝子


◆作品3(6名の選者による選歌欄)より
八月一日農道を行く両の田の稲は早くも穂を出してゐる       井上 保代
この夏の宿題せむと来し児等ははや鉛筆を動かしてをり       江木 正明
水張田は夕焼け映しオレンジの海となりけりハンドル軽し      寺谷 和子
妹の供へてくれしけいとうは暑き日射しにしをれゆきたり      福田 美蔭
放たれし平和の鳩か剝き出しの原爆ドームに一羽がとまる      今川 茂子
定刻より早く始まる診療の医師も患者も皆老いたりき        山本名嘉子
枯れながらやうやく生りし小さき胡瓜昼餉に生でさくさくと食む   如月 生子
暑さにも慣れねばならぬと自転車を漕ぎゆく道にかげろふの立つ   五島 幸子
たっぷりと出張前に水を張る五日不在のわれの稲田に        原岡 大騎
この年の玉葱不作といふニュース我が玉葱もつぎつぎ腐る      丹  亮子
老いの日々願ふことは少なきになほ七夕に思ひを託す        西川  操
廂まで凌霄花の上り咲く老人ホームに行きし友の家         藤原 亘子
汗垂るる身体に通る川の風暫し休みて草刈り続く          松下 恭子
勤しめばいそしむほどに指曲がり農に励みし手を摩りみる      向井よし子
ミンミンの頻りに鳴ける海岸(うみぎし)に我も泣きたし暑き真昼を 岡村 敏子
四十三年無事故運転つづけきて新しき免許証また手にしたり     荒木 英市
我々の未来のために新車買ふ少し小型のハイブリッドを       堤  恒平
言ひ訳の如く庭に少し汗かきて今日のひと日も終りゆくなり     河野 政雄
広田湾遮るものの無くなりて静かなる海を見つつ散歩す       金  幸枝
仮設出で新居に越せば度々に訪ね来る人楽しかりけり        佐々木京子
かさあげの遠く彼方にのぼる月復興の街蒼く照らしぬ        佐々木美津子
ネコ車に山盛り三台雑草を引けば庭畑さっぱりとする        根田 幸悦
黒揚羽螺旋描いて上りゆく静かなる愛夏真盛り           吉田 カツ
土手を越え登校急ぐ子らの声移転せし地を探検しゆく        吉田 京子
如何にしてこの口惜しさを追ひ遣らむ陸橋の下ぐんぐん歩く     渡辺  涓
かの時に囁かれし熔融は五年後の報道もうやむやとなる       佐藤テル子
除染終へ安堵せし朝雨降りて雨どひのごみの線量高し        菅生 綾子
返納を思ひ直してもう一期運転免許の更新決めぬ          二階堂易子
台風の去りて静かな朝なり思はぬ所に雨もりの跡          星 津矢子
道添ひに立つメタセコイヤの懐かしく最後の職場の傍通り来ぬ    大墳 淑子
傘さして石のめぐりの草を引く一人になりたい梅雨のひととき    富田 陽子
故郷をかなしみ友らの歌ふなり被災の前の陸前高田を        三輪 武士
さびしかろうと娘がくれた白いインコ鳥かごの中に涼し気に居る   和泉 南雄
わが生れし家無く更地広々と車窓に見つつデイケアに行く      久保  芳
点滴を受けつつ眠るひいばばに幼きものは少しづつ寄る       高橋 瑠璃
老犬と老飼ひ主ととぼとぼと今日の散歩は田んぼ八枚        陳  寒佳
若きより使ひ続けし手の指は節々太く少し曲りぬ          井深 雅美
卵割る手を止め慌てて黙禱す彼の日と同じ青天の朝         北見 法子
叱られし記憶もあらず麦藁帽かぶりて母は草むしりゐき       古島 重明
白き腹見せて動かぬ蝉ひとつそのままにおく待つもののため     髙橋あや子
若木なる柿に小さき青き実はつやつやとして光を掴む        横井 勝子
自家野菜八種ささやかに植ゑつけてひたすら梅雨の雨の日を待つ   倉科 悦男
運転席リクライニングして一人見る雨の中なる今年の花火      西谷 時子
夫が居て息子夫婦も居てくれてわれは幸せ眠らむとする       鈴木 晃子
よく歩きよく耕しし午前中午後はしづかに机に向かふ        桐山 五一
妻吾がもうくる頃と車椅子の夫が此方へ向ってきてゐる       田中 芳子
わが家に人訪ね来るはまれにして夫の遺影のほこりを払ふ      谷口嘉代子
戦争の回想録を積み上げて籠り読みゐし晩年の父          畑 佐知子
補聴器の耳に届けりこのあした遠く鳴き出すくま蝉ひとつ      堀田三重子
旅に発つ朝さりげなく米櫃に米移し入れ子は出てゆけり       丸山 倫江
2016.10.15 10月号の歌
セイタカアワダチソウざくろ10月です。急に朝晩冷えるようになりました。大阪は雨や曇りの日が多く秋らしい感じに乏しいと思っていましたが、今日は爽やかな青空が広がり気持ちがいいです。
仕事が忙しく何か追われるような感じでしたが今日は久々に休みらしい感じです。朝から掃除洗濯、手紙の整理。夜は友人と飲みに行きます。これも久々のこと。でも明日は歌会があるのにその準備はまだ…。まずいです。でかけるまでに歌が作れるのか心配、特別歌会の写真も未整理。来月までにいくつか書かなければいけない原稿もありました。まずいです。なんだ、やはり時間がないのに変わりはない。久しぶりにのんびりしているのは気持ちだけのことでした。今日切羽詰まっていないだけで、結局今日のんびりするとまたいつものように明日から切羽詰まるわけで…。はは…。

「青南」10月号(第十九巻第10号)掲載
歌詠みが歌詠むさまを歌に詠む何とも不様と思ひながらに       清水 房雄
温度感ヘルパーとわが異なれば窓あけ放つ部屋に飯食ふ        伊藤 安治
かたまりて紫色の濃きすみれ引返しきてまた吾は見き         逸見喜久雄
骨壺は小さきがよしと淡々と詠み給ひけりすこやかの日に       今福 和子
二人の子老いゆくときを見るまでに長き命は思はざりけり       鈴木 登代
たかぶりし心をさまる時にわれこの国にゐて朝のパン食ふ       堀江 厚一
平仮名の呼びかけで始まる君の作「ねえおかあさん」「ねえおとうさん」 豊田 純子
安まりはまだ日のささぬ朝の庭引きゐる草にものを言ひつつ      梅沢 竹子
青菜でも大根でも蒔かうかと思ひつつ雨ふりをれば見てゐるばかり   内田 一枝
療園を出づることなし身にきざむ傷痕ふかきを憚る吾は        山本 吉徳
農地法にて人手に渡りし父祖の田が貸農園なり立札が立つ       松尾 鹿次
わが山の涸滝けふは様変はり三筋に水を落しゐるなり         森永 壽征
自転車に乗りて巨船を見に行かむ「ついて来いよ」と夫も意気ご    今泉  操
神宮の森の外れにあたらしき土を盛りあげ土竜棲むらし        籏野  桂
青山に通ひし頃のあれこれもうろ覚えにて今日乗り換へる       伊藤 和好
呆けたと云はれそのふりをしてをれば何かと我に便利なりけり     副島 浩史
天ざかる富士の遠嶺を見はるかす空しきものはすでに捨て去り     森田  溥
午後の日の暮れゆくひかりしんしんと身に抱きつつ別れ来りぬ     瀧本 慶子
一句二句こぼれたやうな気配して立ち止まり拾ふ吾が内の声      竹内 敬子
夏服の左ポケットにガムひとつ一年前のことは茫々          監物 昌美
庇より入る月光のもとに寝るメモ幾度か取りて眺めて         伊藤登久子
起きても一人寝ねても一人ただ一人一人といふはきびしき       海野 美里
蒸し暑き畑に夕べの風立ちてキビタキ澄みし声に鳴き出づ       山本 靖彦
このまま覚めず逝けたら幸せとひそかに思へど口には出せず      谷口嘉代子
亡き妻の愛でゐし安寿厨子王像吾の机上に一年を過ぐ         北村  良
元気かと誰かの声がしたやうな雨降る午後の一人の厨         平尾 輝子
独り居のけふも過ぎたり鉢の花に水やる吾の影ながながと       村重 広子
看護師の優しき言葉今日も聞く心に留めて夕べ臥しをり        福島 五月
過ぎたるか苦しきことの多かりき林芙美子の一節のごと        佐々木京子
夕茜舳さきに浴びて夫と立つけふは浅内の沖合にして         佐藤 昭子
ゴンドラのともし火見ゆる安達太良山闇の深まる空の果たてに     佐藤テル子
わが身には派手になりたるペンダント雨に籠れるひと日の胸に     鈴木八重子
十八の娘は原発再稼働反対唱ふる候補者選ぶ             出口 祐子
おとうさん頑張りすぎはだめですよ草刈る吾に妻は言ひたり      豊田房太郎
人として実りゐるのか生を享け八十年目に入りて悩めり        堀江 周子
これしきの坂に自転車下りて押す紫の花イヌフグリ咲く        古島 重明
家族の会話の中に入らむと補聴器付けて食卓につく          横田 時平
今日よりは独りの生活ひたすらに本を読みまた旅に出でむか      奥東 時子
玄関に今夜も家族三人の靴の揃ひて無事なるひと日          谷生美砂子
六十五年の歳月長くも短しと夫と語りて結婚記念日          伊吹 泰子
熱い熱い茹卵口に頬張りて何か幸せな心地するなり          小野 京子
うぐひす雉鳩の鳴く峠道若葉となりて風快し             関口 貞夫
猫と我老を慰めゐる部屋に今宵の客は一ミリの虫           堀田三重子
夜となり膝に巻きたる装具はずす手に取り見ればずしりと重し     丸山 倫江
雨の日の続くを喜ぶ我がゐる今年初めて稲の世話して         板谷英一郎
雨足の激しくなりてゆく中へ水番われは合羽着て出る         江木 正明
根を張りし稗がごっそり抜けし時気持ち良かりし稲田の中に      村上 良三
痛むなく眠れし今朝は心地よし庭に出づればカサブランカ咲く     鹿庭れい子
退職を自ら祝ひ文具店に求めし青き万年筆              釜野 清信
キッチンの吾の居場所に風通り清しき朝に梅雨の明けたり       西風 諒子
雨に烟る雑木林のひとところ黄の明かりして熟るる枇杷の実      十河 滋子
朝より大空晴れて良い天気東京の孫尋ねて来たり           吉田 寿美
孫と子を今朝も窓辺に見送りて朝餉の卓に妻と座りぬ         永山 健二
モップ押す廊下の先の小窓より凌霄花の明るき花が          宿利はるえ
ともかくも今年の剪定終りたり年どし枝に届かずなりて        河野 政雄
今いのちあるさへ不思議を思ふのに近頃食ふ物なべてが美味し     横山 昭夫
住む人の絶えて破れし戸障子を包みて庭の若葉が繁る        佐々木知津子
「朝早く目が覚めてしまふ」涙して笑ひ合ひて寂しく帰る       渡辺  涓
林の向う新しき家立ち並び思はぬ方に街の広がる           小濱 靖子
膝かばひわが住むめぐり日々歩む坂の多きに気づくこの頃       石田 孝子
誰来るといふこともなき玄関に庭の紫陽花ゆたかに活けぬ       小湊宜誌子
草刈りし畔を境にしらじらとそばの花咲く集落を過ぐ         丹治 廣子
川の上光をふふむ雲ひとつ山の雨降る午後となりたり         金子 侑司
疲れると心の平らを崩される介護九年目正念場に入る         神田 俊三
鉢植ゑのままに卯の花根づきしを日照りつづきにやや萎れたり     三輪 武士
亡き母の歳より八年永く生きまだまだ生きて居られさうなり      山﨑 久子
わが庭の茄子と胡瓜をかすめつつアオスヂ揚羽は青煌めかせ      伊藤 章子
何かより遠ざかる思ひ何かには近づく思ひありて誕辰         高橋 瑠璃
通知票にいつも書かれし言葉あり「努力が足りない」今も変わらず   田中 貴子
米寿ふたりベッドに並び語り合ふ外面はすでに梅雨しとどにて     夏苅 敏江
目の疲れに効くと言ふブルーベリー器に盛りて子の帰り待つ      花田 順子
紫陽花の白きが好きと手で包み感触楽しむ盲の友は          細矢理恵子
焦りつつゴリラの着ぐるみ仕上げゆく最後に目をつけ夜の明けてゆく  井深 雅美
ここからが中尊寺かと月見坂地蔵の帽子赤き前だれ          伊東 芳子
ゑのころぐさゆらゆら揺れてまだ小さき蟷螂鎌を振りあげゐたり    小久保基子
校庭の木々に児童らの名札つけ「一年間わたしがお世話をします」   高橋 繁子
我に合ふ髪型になりここちよくつばめ飛び交ふ街を歩みぬ       板橋 節子
筆圧の弱まりてこしわが文字のなぞりてありぬ健診票に        髙橋あや子
新築の家建ち上る前にして若き父親胸をそらしぬ           成田久美子
薬包紙が正方形でありし頃毎日鶴を折りてゐたり           藤  繁子
先代の家の名残の石鉢に水を満たしてめだかを放つ          倉科 悦男
裏山に桜の咲くを一人見る桜が咲いたと一人呟く           吉沢 真理
職業欄の主婦に丸してひと呼吸何でも無かったことに疲るる      西谷 時子
はじめて見るオリーブの実の四粒が葉陰に見えて心たのしき     佐々木美智子
ひとつ屋根に息子夫婦と夫とわれ暮らして二年静かなる日々      鈴木 晃子
新幹線の静岡駅は二方向北に南に街は開けぬ             苫米地和江
「兄さんも亡くなりましたよ」写し絵の妻に早速告げてをりたり    桐山 五一
差し当りほしい物など今はなし「どうしてないの」と曾孫七歳     前田つる子
何処よりか姉とふたりの帰り道ほのぼのとして夢より覚めぬ      石橋 光子

2016.09.11 9月号の歌
レオピノコ9月です。いつまでも暑い。台風が多い。被害に遭われた方や大変な地域の方々に心よりお見舞い申し上げます。
土曜日は戦後の「アララギ」をいただきに京都の会員のお宅に行き、長々とお喋りしていました。何ヶ月かに一度こうして伺い、リュックに入るだけ入れて肩がちぎれるかも…と思いつつかついで帰ってきます。送ろうかともいわれましたが、お会いできる機会でもあり勝手を承知で出かけていきます。たまたま我が母校の近くにお住まいということもあり懐かしい街を歩くのも嬉しい感じなのです。

「青南」9月号(第十九巻第9号)掲載
◆作品1(作者自選歌欄)より
外食は何時もの店にてスパゲッティ僅か歯応へ有るも親しく     清水 房雄
昼寝より覚めたる時に調子よく隣家より包丁叩く音せり       清水  香
早く効くリハビリもあり靴下を容易に穿けるやうになりたり     伊藤 安治
閃きは直ちにメモに記すべし閃きは即わが短歌なり         逸見喜久雄
五月祭にカキ氷百個売りたりと孫は日に焼け屈托もなし       今福 和子
責めて責めて何をもせずにある者も許され眠るこの土の上に     堀江 厚一
テレビ映像切りて静かさ果なき夜みづからの息きこゆるまでに    梅沢 竹子
文明先生み墓めぐりの草刈られ五月十四日只々すがし        内田 一枝
手術後の鏡のわれの目の縁の浮腫痛々し底の目玉も         能見謙太郎
鼻腔より胃に管通す苦しみは生きる喜びに繋げる苦しみ       山本 吉徳
戦乱のとほき昭和を語らむにあいつもこいつも死んでしまうた    松尾 鹿次
背負ひたるリュックに少し茎を出すかをり豊かなわが山の蕗     森永 壽征
海霧はいつかはれゆき復興の街に燕は尾を上げて飛ぶ        戸田 紀子
帰り来し母と幼子階下にて交はす言葉のしばらく続く        伊藤 和好
朝明けの光をあびて沖を行く船一隻が視界より消ゆ         副島 浩史
一両に乗客ふたりことばなく朝もや深き県境を越ゆ         森田  溥
遠征の中学生の集ひゐるバスの乗り場に藍の花咲く         瀧本 慶子
パンフレットは宮島の鹿に喰はれけり巡る前にてしばし佇む     竹内 敬子
夏至前の暑き日が山に沈む頃草刈機提げて吾は出でゆく       長弘 文子
闇に慣れし眼にまぶしき六日月蛍の森を出できて仰ぐ        伊藤登久子
灯を消せば月光の部屋に白銀の光はしづかにわが枕に及ぶ      海野 美里
野茨の花の香りのほのぼのと畑の畔草刈り終りたり         山本 靖彦

◆作品2(6名の選者による選歌欄)より
早蕨がもう出てゐたとひとにぎり姪が置きゆく勝手口に       平野しづえ
子供等に悲しき思ひさせぬため勇気を出して生きねばならぬ     谷口嘉代子
夕靄に白つめ草の花浮かびバンガローに灯りのともる        伊吹 泰子
少女の日に分らぬままに摘みとりしむらさき淡きじゃが芋の花    畑 佐知子
翳り来る山の稜線色変はり今日も無事なりと思ふしあはせ      小川琉璃子
来る人も無しと思へど門灯を宵々ともす独りの暮らし        井上由美子
息子らの前に気丈に振舞へど九十の体泣くこともある        外園 治子
花あれば車を停めて歩きゆく木々のあひだに路つづきゐて      河野 政雄
大き出刃を買ふは最後か丹念に刃先見てゆく工房のなか       佐藤 昭子
茎高く立葵咲く道の辺に除染作業の看板の立つ           丹治 廣子
何ゆゑにこんなに買ひしか母の家に値札の付きしままにある服    出口 祐子
一切の命の時は終りたり音立て倒る胡桃一本            吉沢 真理

◆作品3(6名の選者による選歌欄)より
帰り遅き子らの皿にはラップかけ夫と二人の夕餉はじむる      角谷 明子
手術待つこの二ヶ月よ馬鈴薯の花咲く見ればこころなごみぬ     寺田 シズ
見えざれば隣の墓に手を合はす母はこちらと運転手の言ふ      藤原 清次
サボテンの花の開きし六月の庭に夫との会話のはづむ        平尾 輝子
二枚の田トラクターにて耕して満足さうな九十の父         板谷英一郎
柏餅欲しと思へば動けるよ雨風の中柏の葉取る           難波 澄子
菊作り止めし素焼の八号鉢積み重ね置く庭の奥処に         今川 茂子
物ひとつなき地に重機の音のして「かさ上げ工事」のそばを通りぬ  森川 武彦
今日ひと日何をせしかと思ひつつ五行の日記埋められず閉づ     村重 広子
ホームに入ると決めたる姪はつめこみし簟笥ひとさを売り払ひたり  森田 佳子
見てゐても未来の変るわけもなし燕の帰巣そら豆の発芽       釜野 清信
体力の衰へ来れば筆力の失せし歌稿も許し下され          三枝 笑子
坂道をマフラー靡かせ腰上げて自転車漕ぎつつ孫もどり来る     中山 輝子
いつよりかインスタントのラーメンを食べる女に成り下がりたり   水越 みち
御喋りのおかめインコの亡くなりて寺の廊下は又しんとなる     山口  悠
家計簿と短歌手帳に加はりて介護日誌を今日書き始む        加藤 公子
一斉に朝開きたるサボテンの夕べ萎みて再び開かず         東倉紀美子
野あざみの花は終りて綿毛となりどこまでも風に吹かれゆくなり   堤  雅江
帰りゆく息子の姿消ゆるまで窓辺に立ちて吾は見送る        吉田 寿美
誂へし手鎌一丁母の日に少し遅れて子のプレゼント         宿利はるえ
病室の物影仄かに見えて来て吾が八十九歳の朝明けてゆく      横山 昭夫
二時間を眠れぬままに入眠剤残りの半錠のみ足して寝る       板橋のり枝
ルピナスは色とりどりに高く伸びうれしきことを夫の言い出づ    眞野 ミチ
補聴器を忘れて来たる山辺の道今しみじみと沈黙の春        渡辺  涓
日の射せばやうやくわれの意気込みて木を挽き始むこころは若く   大室 外次
海近きホテルに着きて潮騒の聞こえぬ海が垣間見えたり       佐藤テル子
蕗の皮むきて浸せば水に浮く絹の糸にも似る細き筋         二階堂易子
赤城山一人歩むは気安くてしげき木群がたえず動きぬ        金子 侑司
なみなみと水は苗代浸したり朝日に照りて静まる水面        神成喜久枝
鹿除けの柵をめぐらし青々と陸前高田に早苗植ゑらる        富田 陽子
パパと言ふことばは発音し易いか娘三人は矢鱈に使ふ        和泉 南雄
旅だより貰ひし夜は九州へ行きたる夢見てたのしく目覚む      堀江 周代
兄の一周忌法事の済みて参る墓時鳥鳴く間近き山に         若林 壮次
さはさはと杉群れ動く昼のとき独り見てゐる寂しかりけり      栗原 義一
別れゆく朝に海霧たちこめて奇跡の一本松遠くなりゆく       小久保基子
昼下がりガランと一人新茶いれ揺らめく香り人恋しくて       田中 マリ
散髪をすませ帰りて爪を切る妻の不在も三月となりぬ        古島 重明
鯛を焼き赤飯を炊き豆を煮る曾祖母われの今日の幸せ        池谷 久子
凌霄花散りて明るき道をきぬ保ちし心またゆらぎたつ        大塚 道子
竹内か竹の内かは未だ知らず一人来りて隣人となる         黒部 一夫
白く咲く花に面影重ねしを母のテッセン庭に絶えたり        西谷 時子
舗装路を逸れて墓への砂利の道姉妹三人並びて歩く         奥東 富子
建ててはや四十五年かわれの家今日はドアのノブが外れぬ      望月百合子
2016.08.27 8月号の歌
リボンの騎士しんせいのうどん8月も終わろうとしています。どうも忙しいらしい…。何かと時間がないようで週末ごとに分刻みで何かを片付けている具合。
今月は歌会も含め2回高松へ。そんな慌しい最中、電車は停まる…が2回、そしてエアコンが壊れ、冷蔵庫が壊れ…。その手当にもずいぶん時間をとられました。毎晩32度から下にならないマンションで、ほったらかしですむものではなく…。それでもどうやら元気です。

「青南」8月号(第十九巻第8号)掲載
◆作品1(作者自選歌欄)より
軍には軍の仕来りが有り癖が有る汁椀一杯の配りやうにも          清水房雄(さいたま)
我のほか見る者の無きホウチャク草犬走りにて咲き散りにけむ         清水  香(豊中)
しろじろと桜の花弁渦巻ける横断歩道を渡りきりたり             逸見喜久雄(東京)
水うまし豆腐うましと富士見野に共に楽しみし時はかへらず          今福 和子(藤沢)
指し示す友のふるさとかすみつつ色さまざまに若葉よろこぶ          堀江 厚一(埼玉)
花すぎし馬鈴薯は土に太りゐむ畑に五月の日のふりそそぐ           梅沢 竹子(東京)
朝食抜きの水の旨かりひと息に飲み終へて待つ尿素検査を           佐々木良一(秋田)
浜辺なる魚市場巡れば捕れたての蛸が鰆が鰓を動かす             能見謙太郎(岡山)
胸熱く読みたる憲法九条も兵たりし日もとほくなりたり            松尾 鹿次(小野)
触るるのみにたはやすく点く灯の下にアララギ読めば寂しくもなし       高木  正(別府)
陽を浴びて登りつめたる首里城に南蛮の風強く吹き上ぐ            前川 昭一(東京)
わが後をつかずはなれず来る猫も落葉かすかに樟の下道            今泉 操(八幡浜)
腰抜けは腰抜けなりに地を這へるうたを作らばたのしかるらむ        伊藤和好(さいたま)
三十年乗りしマイカーの鎮まれる車庫に晴れたる夏の日は照る         塩崎厚吉(相模原)
切られたるあららぎの幹の荒あらと古き年輪のみ新しく            森田  溥(横手)
論は論命は命さもありて重なる世界を歩む被災地                 瀧本慶子(陸前高田)
平気だと言へば平気に見えるからそのやうにして二年を過ごす         竹内 敬子(豊中)
母の日よ植物園へと娘の声正門へのあの欅道歩けるかしら           上柳 盈子(京都)
伝染性なしと聞きにき夫逝きて今日わが肺に小さきくもり           伊藤登久子(碧南)
苗床に玉蜀黍の苗は伸び風のまにまのみどりはやさし             山本 靖彦(周南)

◆作品2(6名の選者による選歌欄)より
花咲くたび鳥鳴くたびに悲しけり喜ぶ母の声は聞えず             吉沢 真理(長野)
春の海ひとり見てゐし弟の広き背中の忘れがたしも         西谷 時子(敦賀)
ドクダミの花が広ごる庭隅は今しばらくはそっとしておく           木村玲子(名古屋)
朝の陽の光眩しとカーテンを引く老いあれば開く老いあり           竹田スミコ(高松)
老い人を乗せ老い人を降ろしつつ旧道をゆく真昼のバスは           井上由美子(愛媛)
足腰の衰へしるくゆるゆるとわたくし流に転ばぬやうに            十河 滋子(東温)
セシウムの検出なしの報告書受くれども誰も食はざるわらび         二階堂ヤイ子(福島)
乾きたる畑うるほす雨のあり農を休みて草餅作る          野口久仁子(埼玉)
蕾もつ薔薇苗求め帰る道混み合ふ電車いくつか見送る             花田 順子(志木)
それぞれに履き慣れし靴を見せ合ひぬ君はプラダの黒き一足          伊東 芳子(東京)

◆作品3(6名の選者による選歌欄)より
明日当り雨の予報に妙義山の花見は今日とバスに登れり            山﨑  修(氷見)
起きしなの在宅検診数値正常高山音頭はなうたとなる             野林 幸彦(高山)
新しき運転免許証手に取りて無事故無違反心に誓ふ              中津留初枝(豊田)
どの角度に手を動かせば痛まぬか起き出す時のしばしの思案          谷口嘉代子(京都)
何処へも行けぬ体と知りつつも服を買ひたり靴も買ひたり           神尾 和子(御所)
うぐひすの声を聞きつつ登り来て木蔭に憩ひ湯冷しを飲む           関口 貞夫(生駒)
ふるさとの無人の家に繁りたる藤づるを切る道のほとりに           村上 良三(岡山)  
土を取り山の崩され谷間の田畑は二時間早く陽当たる             釜野 清信(高松)
母の漕ぐ自転車の荷台に幼持つ鯉のぼり泳ぎ通りゆきたり           中山 輝子(香川)
連休の谷間の今日は登校日ため息つきつつ孫は出かけぬ            西風 諒子(香川)
我が視力聴力共に衰へぬ臆せず最前列の席に座れり               大西 光子(松山)
潮騒の音に消えつつうぐいすの鳴く声を聞く灯台岬亀田美津子(松山)
三軒の家族が集ひ端午の日祝ひくれたり我が誕生日           永田 和子(松山)
快晴の空に飛び立つ飛行機に我は乗りたる幾年ぶりに             藤代幸子(八幡浜)
若者に「うざい」と言はれ辞書引けばなるほど納得「うざい」は有才(うざい) 向井よし子(伊予)
新緑の風心地よしセーターを五枚洗ひて茶箱に仕舞ふ             中村躬枝子(福岡)
歩道までのびて桜は咲き満てり寂しき思ひ振り払ふべし            中山 通子(福岡)
久し振り紙での給与明細を妻と眺めぬ六十七歳              堤 恒平(佐世保)
ベランダに階下の柿の枝が伸び明るきみどり朝ごとに触る           南 美智子(長崎)
ひとひらの雪のごとくに咲きくれし寒菊の花の根分けしてをり        佐々木知津子(秋田)
山畑に肥料撒くべく出で来たり耕起を終へて水蒸気の立つ           佐藤 昭子(男鹿)
晴天の山のいで湯に吹く風は若葉の強き匂ひを放つ              東海林諦顕(秋田)
田起こしの済みし田圃に水入りて蛙鳴きゐる春の夕暮れ            泉 多惠子(米沢)
花かすみ遠く桜の咲く夕べ逝きて恋しき妻なりにけり             大室 外次(南陽)
園庭に飼はれし豚のまろき背に木漏れ日ゆるる若葉が映る           平野 明子(福島)
百一歳の母を祝ふと病院の誕生会に招かれて来ぬ           小出美恵子(高崎)
亡き母の繕ひくれし古き足袋も処分できないものの一つに          伊藤章子(さいたま)
迷惑をかけず逝かむと今日もまた歩み出でたり休み休みに           伊藤 せい(埼玉)
押入れにミンクのコートカヌーのオール一番奥より日本刀出づ        出口祐子(さいたま)
早朝のメールは陸前高田発心に涙涙と夫より              堀江 周代(埼玉)
里山に丈高く立つえごの木の花散る道をくだりてゆけり            小久保基子(東京)
妻の出す青汁飲みて杖突かず歩ける散歩路考へて居る             横田時平(八王子)
おだやかな晴れの日三日枝豆も胡瓜もポットに芽ぐみて来たり         三橋 梅子(横浜)
2016.07.10 7月号の歌
アトムだ蓮池暑中お見舞い申し上げます!
で、いいですよね、7月です。今年も半分が終り梅雨が終わったのかどうかよくわからないまま暑い毎日です。祇園祭もはじまり大阪の駅でも毎朝京都線の方から祇園囃子が聞こえて来て、これを聞くとああ夏の盛りだ、と私は感じます。でもさあ~私の乗る宝塚線には手塚治虫記念館があってさ、今はアトムなんかの描かれた車両で、これもちょっと朝から嬉しかったりします。
毎日こんなにあるんだ…仕事ってというくらいてんこ盛りの毎日。去年の今頃の日々の暇さと空虚さを思うと不思議でさえあります。

「青南」7月号(第十九巻第7号)掲載
◆作品1(作者自選歌欄)より
軍にありて何をか吾の悟得せし忠君愛国も夢のまた夢       清水 房雄
マルタにて折りたる小枝根付きたれど咲かぬ六年もう少し待つか  清水  香
今日のヘルパー駿河湾岸の生まれにて桜えび天ぷら揚げてくれたり 伊藤 安治
日常の様々為してゐるものを面倒な書類の数字まとめる      逸見喜久雄
この広き園の六月何処にかヒマラヤの青い芥子が咲くといふ    今福 和子
特攻基地加世田より来しシジミバナ春なれば咲くほろろほろほろ  堀江 厚一
仕方なく用字手帳に調べみるやうやく「麩」の字にたどりつきたり 内田 一枝
サンルームあした冬日のきらきらし歩行器よせて窓べに坐る    佐々木良一
寝室より今宵仰げば月昇り月の光に安らぎて臥す         庄司ゑい子
今の地震堪(こた)へたのうと言ふ電話人間魚雷の隊長だった   高木  正
花冷えの心憂きあさ木漏れ日は厨のま中に届きてゐたり      佐藤 東子
金網ごしの春の陽あたたかさうに見ゆ哲学堂の木彫の幽霊     戸田 紀子
頂上の平たく見ゆる苗場山もあれでなかなか君の言ふには     伊藤 和好
膝腰の疼く八十半ばなりテレビに向かふ朝の体操         上山 篤義
玄関に活けたる李の白き花ふたりの老いの靴に散りしく      尾形 冴子
親の手に黄の旗高くある朝子らのカバンはゆれゆれ紅し      瀧本 慶子
目薬をさすのが下手で頰伝ふ涙ぢゃないのよ何度もぬぐふ     竹内 敬子
大阪駅中央コンコースに待合ひき平凡に生きて共に老いたり    松家 満子
障子戸を閉ざせば昼も暗き土間上り框に甘酒いただく       嶋 富佐子
春の嵐すぎて芽を吹く垣山は靄の棚引く上に連なる        山本 靖彦

◆作品2(6名の選者による選歌欄)より
怠惰なる吾と係りなき如く黒き森より出づる太陽         伊東 芳子
歩行器につかまり足踏みして居たり妻は桜の見ゆる窓辺に     古島 重明
篠笛の哀愁帯びし新相馬節歩みをとめて終るまで聞く       鈴木 信子
夕鳥の枝移りつつ声もなし病みては今日も一日見てをり      寺田 シズ
亡き妻の手書きの名札なほも立ちて今年も咲けり庭の春花     北村  良
風邪が少しよくなりし母もう畑に暗くなるまで草を引きをり    板谷英一郎
美しき囀り聞こゆ見上ぐれば逆光の中影のみの鳥         五島 幸子
夏来ればそよぐ青田を秋来れば垂るる稲穂を見つつ通へり     丹  亮子
歌のこと仕事の事を考へず日帰り湯に来て芝居にほろり      佐藤テル子
歩みなれしわが庭先に転びたり誰か見てゐる者はゐないか     二階堂ヤイ子
朝食の茶碗も流しにそのままに母は穏しく眠りて逝きぬ      出口 祐子
あらあらしく杉の古木は揺れ動きこの風景は寂しかりけり     栗原 義一
 
◆作品3(6名の選者による選歌欄)より
玖珠と言ふ変はりし地名に住みてゐし友に一度は逢ひたく思ふ   池田 幸男
托鉢の朝の街行く修行僧の若き足なり細き足なり         𠮷町 博子
家前の畑に咲ける菜の花を門にもたれて夫は見て        佐々木美智子
回復期なんと響のよき言葉繰り返し言ひ足ひき歩む        苫米地和江
樟二本春の落ち葉の夥しすでに新芽の尖り天指す         望月百合子
歩くこと歩けることが当然のやうに思へて過ぎてゆく日々     桐山 五一
年度末の忙しき仕事片付きて母の墓辺に時かけてをり       中津留初枝
遠く見ゆる石塀の上をのっそりと歩く猫ゐて春うららなり     平井 和枝
シルバーカーたよりて常の坂二つ腰をおろして町家見晴らす    井上 保代
届きたることは忘れし母なるも状差しにあり介護通知書      村上 良三
入院の夫と看護の吾の声共に掠れてささやき合ひぬ        山本 昌子
暮るるまで少し間のある丘の畑草取りをやめ海を見て居る     福本 一夫
里芋を掘り起こしたる黒土は雪をかづきて湯気立ちてをり     森元 輝彦
竹藪にラジオ体操聞こえ来ぬ筍掘りを中断したり         釜野 清信
雨に打たれ地に伏すラッパ水仙を剪らねばならぬ仕方なく切る   三枝 笑子
手術後の麻酔とれゆく怪し気な酸素マスクの夫の声聞く      亀田美津子
海原に流れゆくのか花筏明日発ちゆく君を想へり         佐々木容子
雪解けて乾きゆく庭見つつ待つ今年植ゑたき幾つかありて     河野 政雄
看護師の押す車椅子に乗せられて長き廊下を風切りてゆく     横山 昭夫
我未だ仮設に暮すされど今熊本地震に心を寄せぬ        佐々木京子
仕事する時刻は朝の三時半若布若布に春の日々過ぐ    前川 和子
やはらかく被りし雪を手に払ひ堅く育ちしブロッコリー摘む   佐々木知津子
土手道は砂利あり草のところあり足元のみを見詰めて歩く     渡辺  涓
除染了へ肥料もせざる庭の木々芽を吹き優しく沈丁花咲く     畠  ミチ
震災の津波に倒れし松の木の丸太が高く積まれてありぬ      松本 令子
黄の帽子黄のランドセル通りゆく芽吹き初めたるプラタナスの道  伊藤 章子
2016.06.26 6月号の歌
せっとるけんぐるり6月です。いや6月ももう終わりです。7月号が来てしまいました。更新を怠っておりました。まあ、ちょっと忙しい。体調が悪いのかとご心配して下さった方もいらして、有り難くも申し訳ないことでした。元気です!
何度か紹介した琴電のポスターが新聞で大きく取り上げられてました。遅いっちゅうねん。あの良さに今頃…。ポストカードになったとか。今度帰ったら買おうっと(^^)/
と、私もこの前撮ったのせとこ…っと。

青南」6月号(第十九巻第6号)掲載
◆作品1(作者自選歌欄)より
もうあまり長くも生きる心算(つもり)無く訪問看護師にぽつりと言ひぬ 清水 房雄
月に一度くる住職の挨拶は作ってますかと先づ問ふてから      清水  香
伸びる限り酸素チューブを庭に引き今日温かき日差し浴びをり    伊藤 安治
生きてゐる顔を見せよとヒヨドリは餌台に立ち我を待ちゐる     堀江 厚一
病気自慢に勝ちて帰りし日のゆふべ頂いて来し餡餅を食ふ      堀江 厚一
洗濯物取り入れたたみてくれし子よ前よりやさしくなりしを思ふ   内田 一枝
隣より息子来りてしばらくをギターつま弾き帰りゆきたり      庄司ゑい子
山茶花の花びら散らし鶯のけさも来て鳴くわが裏庭に        能見謙太郎
止まりたる柱時計の螺子を巻く夫にかはりて爪先立ちて       今泉  操
気落ちせし心支へて風の中友と離れてバスを待ちをり        戸田 紀子
リハビリの老ら見送り仰ぐ空あの世はあると思ふひととき      根本  正
日曜の早朝雨の道なれば人の来るなし鳩が時々           伊藤 和好
垣際のスナックエンドウの蔓伸びて風に揺るるを網に絡ます     上山 篤義
亡き者を思ひをりつつ食材を求めに出づる寒き日にても       三輪 昭園
彩りの樹木一本もなき山に今日は雨降る地に吸はれつつ       瀧本 慶子
目覚ましの時計の音を止めむとし朝日もれ込む中に手を差す     竹内 敬子
草木に関心のなき亡夫と思ひつつ仏前に挿す沈丁花馬酔木      上柳 盈子
閏年二月尽日雪降れり君の便りをくり返し読む           長弘 弘子
膳のものうまい旨いと平らげる二人のこの時長くあれかし      松家 満子
いつのまに積みしやスキー具一揃ひ今は廃車のカローラに見つ    伊藤登久子
何を焼く煙かしらねどたちのぼる白きを見れば安らかにをり     海野 美里

◆作品2(6名の選者による選歌欄)より
学年末試験を終へまづ進級の危ふき五人の採点始む         出口 祐子
体曲れば影ななめにてひたすらに直線道路歩み来にけり       栗原 義一
帰り来てカーテン開ければ陽の差して置かれし物の陰移りゆく    塚本佳世子
いささかの家計やりくり求めたる鉢梅五十年けなげに花咲く     池田 幸男
三人の今日の歌会に足る思ひ帰る車窓に湖のかがよふ        西谷 時子
白衣着て聴診器を首より垂らしをり八十八歳の強がりならむ     小関 辰夫
右よしの左はいせの道しるべ長尾街道の分かれ道に立つ       畑 佐知子
ひとしきりの雨降りすぎて農具小屋出でてふたたび草取りをする   福本 和夫
湯たんぽの要らぬ今宵は安らぎて旅の予定を夫と語りぬ       西風 諒子
年賀状がこなかった事を山畑の昼餉の時に妻の言ひ出づ       髙橋  博
意識なき父を残して帰りゆくみぞれ混じりの寒き夕べを       丹  亮子
冬空の朝より青く澄みわたり今日は何か違ふ本を読みたい      河野 政雄
夜の空に咲きほこりつつ桜の花光りつつ散る散りつつ光る      大室 外次
平和祭にゆけぬわたしが夕つ方吐息を吐けばガラス戸くもる     無記名 氏
 
◆作品3(6名の選者による選歌欄)より
老いし身を労り励まし努め居る介護とはきついきつい仕事です    神田 俊三
白鳥は四千キロを帰るといふ大空に我が共に飛びゆく        小出美恵子
風強き今宵は歩むを止めにして君の手紙の返事したたむ       富田 陽子
副作用あるを承知で飲む薬われはどのやうに対処すべきか      三輪 武士
三日月のように尖った娘の頭抱いてたちまち四十数年        和泉 南雄
誕生日祝ふ葉書が来てをりぬ来店お待ちしてをりますと       伊藤 章子
異常ありならばそこから生き方も変へねばならぬこともあらむに   陳  寒佳
これでまた隣の家が遠くなる残雪に積む新しき雪          豊田房太郎
湯に浸り目を閉ぢてじっと聞く柿の葉に降る春の雨音        野口久仁子
一年ぶり主治医に会ひて旅に出る段取りなどを話して帰る      加瀬 雅子
入院せる妻の不在に焦がしたる薬缶を磨く夜の厨に         古島 重明
凍りつく路地歩けずに杖をつきて帰路考へる風の立つ中       横田 時平
虫眼鏡二つ重ねて漸くにその名見出し吾は嬉しも          黒部 一夫
庭隅のサニーレタスを間引きして朝餉のパンにはさみて食べぬ   佐々木美智子
大切に持ち帰りたる受領書はファイルに綴じて保管をしたり    中津留 初枝
紺屋町の道に小さな流れあり今も染物の店を構へり         伊吹 泰子
八十六と言へばおほぎゃうに驚きて歯科の診療始まりにけり     今川 茂子
いつの間に咲きし馬酔木か裏庭の乏しき光に花房を垂る       村重 広子
町中を自転車に乗りて走りゆく見上げる空に雲ひとかけら      池内  保
山間に生まれ育ちて六十年平野の暮らしに憧れし時あり       釜野 清信
さまざまに老いたる人の愛しくて哀しき人と共に過ぎゆく      竹田スミコ
明日に来る子等を思ひて「春の歌」口遊みつつ厨に立ちぬ      大西 光子
銀杏を俎にのせ包丁の腹で殻割る音をたのしむ           亀田美津子
シャモ遊ぶ庭に椿やボケが咲き蕗の薹伸ぶ森の牧場         泉川きよの
随分と心配かけたなみんなにはお蔭で斯うして年を越せるよ     横山 昭夫
星々の光のごとく点す灯の五年目の祈り思ひ新たに         石川 香果
われもまたふくらむ如く温かし冬日に干しし蒲団の中に      佐々木知津子
誰彼に見らるることなく消えてゆけ新雪の上の我の足跡       渡辺  涓
久びさに家の内外計りみる五年経ちたる放射線量          佐藤テル子
雪光る吾妻連峰迫り見ゆ心浄らに朝を歩みぬ            森合 満江
冷えまさり雪のちらつく夕べなり焼芋売りの声遠ざかる       矢森 妙子
霧雨にぬれて咲きゐる紅椿給ひし人を思ふしばらく         堀田三重子
2016.05.08 5月号の歌
瀬戸内讃岐ことば5月です。連休の終りです。とはいえ、私はカレンダー通りの出勤で、三日休んで一日行って、三日休んで一日行って、今日は普通の週末の感じです。高松にも慌しく帰って、庵治にできた竜王山公園に行きました。超強風の日でしたが、絶景でした。
琴電の方言ポスターが相変わらずいい感じでした。「わっせていんにょるで」平仮名にするとすごいなあ(忘れて帰ってますよ)。今の子供も普通に使うのかなあ~。判らない人には外国語だよね。

「青南」5月号(第十九巻第5号)掲載
◆作品1(作者自選歌欄)より
道角の銀杏大樹が目あてにて其処より坂を登りゆきたり        清水 房雄
部屋深く冬の光はさし入りて呆然とゐる我を照らせり         清水  香   
値を書きし部分破りて一棹の穴子の鮨をわれにくれたり        伊藤 安治
カレンダー見つめてをりて安らげりあと一週間あるではないか     逸見喜久雄
人ひとりなき家具売場巡りくればよき机ありひととき坐る       今福 和子
われはただ寂しただ寂し然れども緊急ボタン枕辺にあり        堀江 厚一
大凶を束ねし如きわれの生にひとつ混じれる大吉は妻         山本 吉徳
口元から緑の豆がこぼれ出る春の朝の温かきご飯           戸田 紀子
日脚やや伸びしと思ふ方形の窓に透きつつ青き夕光          根本  正
わが腕の時計も今は使ひ捨てドラッグストアで又一つ買ふ       副島 浩史
五十余年添ひゐる妻の言葉にも耳に手を当てて聞く日々となる     上山 篤義
食材を求めにきたり一人居に多き人参過ち買ひぬ           三輪 昭園
蒼雲はやがて黒雲従へて空を埋めゆく裸丘の夜明け          瀧本 慶子
十三夜の月の綺麗な夜でしたきみは身罷りそののちの雪        竹内 敬子
硝子戸に埃のいたく目に立ちて水屋あまねく冬茜色          鈴木  功
南向き冬日あまねくさす椅子にあなたはをらず膝暖かし        海野 美里
一列に浮ぶ鷗に昭和の子わたしは唱ふカモメの水兵さん        嶋 富佐子
腰痛に刈る気力失せ草刈機藪に投げ出し考へてゐる          山本 靖彦

◆作品2(6名の選者による選歌欄)より
好物の毛蟹だけれど大きいな娘の驕りかたまにはいいね        横山 昭夫
千年の年手繰り寄せ万葉人と歌など詠みて生きたかりけり       佐々木知津子
吾も亦その中の一人がん患者の十年生存率五十八パーセント      森合 満江
九十五歳を自ら祝ひて歌集編む一所懸命作り来し歌          山﨑 久子
聴力のいよよ落ち来て筆談の多くなりたる吾が家しづけし       堀江 周代
去年病みて如何になるやと思ひゐし我にも春は訪れて来ぬ       塚本佳世子
待ちをりし鉢の椿の今朝一輪赤き花びらに白きふちどり        藤井 博子
自づから歩み怠る老の足おもきを励まし杖持ち直す          堀田三重子
チューリップの青芽いくつか覗きたる畑に寒々風吹き渡る       藤原 弘子
何為すも大儀となりて昼時は苦き富山の置薬飲む           竹田スミコ
きさらぎの今日より後期高齢者真新しき保険証届く          井上由美子
一晩で降りたる雪は十二センチ誰も通らぬ道の尊し          堤  雅江
美容院に髪カットして籠もり居の少し変化し二月に入りぬ       宿利はるえ

◆作品3(6名の選者による選歌欄)より
雪あかり白き灯籠並びをり数かぞへつつ昼の街過ぐ          石川 香果
朝練の子等口々に挨拶す白き吐息と大きなる声            内川 香子
厳冬の海に出でむと七十の夫黙々と長靴を履く            前川 和子
震災の海より戻りし腕時計カバンの底に時を留めをり         吉田 京子
西側の窓の凍りの解け切れぬままに冬の日早も暮れ初む        渡辺  涓
穏やかに差しくる朝の春の日に空の彼方の妻の名を呼ぶ        大室 外次
臓器提供にためらふなく我が名書きしばらく心悲しみ包む       小濱 靖子
国道を静かに車流れゆく原発事故などなかったやうに         佐藤テル子
友と二人歌会の話続きゐてなじみの店でコーヒーを飲む        菅生 綾子
平穏に昏れしひと日よありがたう吾妻嶺見ゆるカーテンを引く     星 津矢子
雨の音いつしか消えて雪になり静かに閑かに夜の更けてゆく      小出美恵子 
商店の並びゐたりし大通りシャッターおろす五軒が続く        松田 玲子
一週間経ちて幾分ゆったりと動ける妻を見れば安堵す         三輪 武士
諳んじて弾いたショパンのエチュードを録音をしておけばよかった   高橋 瑠璃
得意なこと吾にもあると思ひつつ子の包帯を取り換へてゐる      細矢理恵子
ジェット機の音の聞ゆる青き空二人の物を干し終りたり        伊東 芳子
僅かづつ視力もどりてうれしかり椿一輪我が手のひらに        板橋 節子
午前九時帰りし婿が束の間を休みて食ひて除雪にもどる        倉科 悦男
梟は目を見開きぬ日の落ちてしんしん二月の夜が更くるなり      吉沢 真理
壁に吊る衣類ほのかに温み持つ吹雪の去りて陽は燦々と        倉島智恵子
吾が後を残る子のこと思ひつつ身辺整理をしきりに思ふ        奥東 富子
今日あたり娘の来るやと思ひつつ苺大福求めて帰る          中西 武子
暖冬の話題となりて一月の待合室に診察を待つ            前田つる子
いい匂いと息子が厨に顔を出すシャボン玉みたいな小さな幸せ     丸山 倫江
老猫よ聞いて呉るるかひとりごとAはああ言ふBはかう言ふ      難波 澄子
日除けにと植ゑられしゴーヤの蔓枯れてそのままなりし道の辺の家   福田 美蔭
手の届く所もあるにと思ひつつ背を向け湿布薬はりてもらひぬ     荒木 文子
あつあつの里芋味噌煮に焼酎と舌に溶けゆく試験終へし夜       田井 恵子
積む雪は昼より白し十五夜の月の光の下に輝く            水谷 節子
風呂場より折々妻の湯を使ふ音の聞こゆる夜の庭に居り        髙橋  博
2016.04.11 4月号の歌
椿べに馬酔木4月となりました。桜前線がはや東北から北海道へ。何年か前のゴールデンウィークに秋田に行きましたが、まだ桜が蕾でした。今年は早いですね。大阪ではしばらく八重が楽しみです。キタにはいくつか綺麗なところを知っていますが、今の主要生息地ミナミではどこにあるのか、しばらく探検です!ミナミの街は道頓堀をはじめ擦れ違う観光客の大半は中国語です。大手のドラッグストアの店員さんも大半が中国人になりました。地下鉄の窓口も英語と中国語のできる人ばかり。国際的というより、もう日本人は相手にされていない感じがさえします。中国人と思われる店員さんはおつりを投げてくるので、ちょっとね。あまり街中のお店に行くのは最近躊躇してしまいます。

「青南」4月号(第十九巻第4号)掲載
◆作品1(作者自選歌欄)より
 不自由に生くるも定めと納得す齢一白何を今さら            清水 房雄
 二十八本すべて揃ひてゐる歯なり奥歯の二本痛みはじめぬ        逸見喜久雄 
 初詣の車つらなりゆるゆると遊行寺坂にさしかかりたり         今福 和子
 おのれ一人の老の夕餉をあれこれと考へ作る時もありけり        鈴木 登代
 モチの木を越えたる月が真夜中のひとつの色となる前のとき       堀江 厚一
 わづかなる熱も気力とふり払ひえんじのセーター着ていでてゆく     梅沢 竹子
 夫との最後の旅は花を見にノルン水上すいせんの花           内田 一枝
 寝ねて闇覚めても闇のわが世界おのれ燃えねば闇は明けざる       山本 吉徳
 平凡な事ながら炊事も三十年妻逝きはやも二十七年           高木  正
 せせらぎのやうな音して公園のくぬぎ落葉が風に流るる         戸田 紀子
 仲間からはぐれてめぐる園の道よそのガイドの説明を聞く        根本  正
 畑土をぐいと抜き出し大根の肌つやつやし冬の日浴びて         尾形 冴子
 帰る日を待ちて手摺を壁毎につけし離れに吾ひとり住む         三輪 昭園
 復興の象徴ならむベルトコンベアー崩せし山に相向かひつつ       瀧本 慶子
 秋冷の挨拶のあとを書きなづみ冬となりたり葉書を捨てぬ        竹内 敬子
 告ぐる人なければ早目の湯に入りて今日の喜び思ひて眠る        長弘 文子
 稜線を真紅に染めて明けてゆく空美しき起きねばならぬ         海野 美里
 散らばりし杉の枯れ葉を片付けて苺の畝の草を引きゆく         山本 靖彦

◆作品2(6名の選者による選歌欄)より
 消さむかと迷ひつつ持つ一首には鉛筆のあと薄く残れり         福島 五月
 移り住む土地を探せど当ての無し老いに近づく五度目の冬は       吉田 京子
 頑張らなくてもいいと自分に言ひ聞かせ座椅子に昼の仮眠をとりぬ    松本 令子
 復興支援住宅といふマンションがわが住む町に次々と建つ        森合 満江
 たづね来し元名久田村に人のなく冬の竹切る音ひびきたり        富田 陽子
 作りかけの弁当置きて庭に見る明けの明星と寄り添ふ木星        出口 祐子
 用すみし暗き厨にふっくらとどんこは水漬きて香り立てをり       加瀬 雅子
 年賀状二百枚一気に書きにけり今日は三十枚で暫く休む         池田 幸男
 人一人歩ける巾だけ雪をかく老いたる一人の生きゆくための       𠮷町 博子
 トラクターの轍のあとをしらじらと霜柱かがやき棚田果てたり      紙谷 孝代
 柿の葉は落ちてしまひぬ谷水は岩間を黒く淀みて流るる         難波 澄子
 初詣境内に散る知らぬ実のひとつ拾ひて帰り来たりぬ          竹田スミコ
 餅をつくひまさへ惜しく伊予柑を選り分けしつつ年明けにけり      髙橋  博

◆作品3(6名の選者による選歌欄)より
 柿もみぢさくらもみぢも散り果てて残りし柿の空にあかるし       竹田志げ子
 昆布巻も紅白なます黒豆も結婚以来初めて買ひぬ            堤  恒平
 暖かき寒の日差しを集めたる干しし布団に今宵眠らむ          宿利はるえ
 認め難き安保法制なれば来て立ちぬ冷えくる足雪を踏みつつ       河野 政雄
 百一歳剛毅な義兄泣きましたか俺も泣きたい声を限りに         横山 昭夫
 保育園流されて五年子どもらは隣の町の園に通ひぬ           石川 香果
 庭隅に犬のふぐりのはや咲きぬ常より小さくひかり輝き         根田 幸悦
 浜に来て買ひし鰰自転車の籠の中にてしきりに跳ねる         佐々木知津子
 新幹線で二時間余り妹に会へると思ふ思ふのみなり           小濱 靖子
 ほつれ髪鏡に映るエレベーター斯く老いて後いかに生きむや       佐藤テル子
 太き筆細き筆を束にして書家なりし兄の柩に収める           星 津矢子
 焼酎と干物が在れば十分です我が晩酌を楽しみ居ります         神田 俊三
 初詣での夫の撞きゐる鐘の音澄みたる空に吸はれゆきたり        神成喜久枝
 会心の作と夫は良寛の詩を書に書きて娘に見せぬ            細野 幸江
 また来るね耳元ちかくわが言へば母の瞼のかすかに動く         高橋 瑠璃
 ケアハウスに帰り来れば変りなくわたしは孤独夕陽照る下        栗原 義一
 先づコハダ鰯秋刀魚とまっ青な海の色せる寿司を食ふなる        古島 重明
 雨の降る師走の仁岸川の辺に西洋蒲公英(たんぽぽ)絮(わた)つけて咲く          砂山 信一
 窓ガラス洗ひゆく水袖口に伝ふ今年の師走の温し            西谷 時子
 夕方の庭に立ちゐてさびしさのつのり来りてラジオ体操をしぬ     佐々木美智子
 庭の土丸めだんごを並べおく曾孫の仕種を書斎の窓に          堺  春枝
 宝石も光当てねば輝かず古き指輪をはめて街行く            谷口嘉代子
 朝より差す日の強く凍てし田にほのかに湯気の立つを見てゐる      上田奈津子
 使ふこと幾たびあらむ届きたるマイナンバーを机に仕舞ふ        畑 佐知子
 風の無き今日はと思ひ火を着ける長き枯れ草畑に積みて         村上 良三
 それぞれの願ひをこめて小さきは小さき音に柏手を打つ         水谷 節子
 眠りゐる母の傍に時過ぎて時雨るる夕べを帰り来にけり         丹  亮子
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