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2016.03.12 3月号の歌
ガマズミ 山茱萸 白木蓮
3月となりました。3月さらないで~っとはや、思う月初めです。
仕事って楽しかったんだ、という感じのこの頃。余りに時間が早く過ぎ、あっというまに一日が終わります。ま、ただ単に慣れない仕事に自分の手が追いついてないからに過ぎませんが…。
仕事がタイトになると週末にいろんなことを片付けることになります。家事と原稿に追われる…。締切続きで毎週末パソコン前。でも今はどの対象も綴ることが楽しいです。心理学的にも一度締切ぎりぎりで仕上げた達成感がある限り、そこにある種の快感を感じ時間があってもやらずに結局なべてぎりぎりにすることになる…タイプの人らしいです、あ・た・し。来月からはまた三カ月連載がふたつ時間差ではじまる、大丈夫なのか…。

「青南」3月号(第十九巻第3号)掲載
◆作品1(作者自選歌欄)より
百歳となりし己は何者かさう考ふる事もまれまれ            清水 房雄
無風にて庭の木の葉の黙りこむかかる日もあると思ひてゐたり      清水  香
ツクバネウツギ即ちあべりあの白く咲く片方を歩む静かに吾は      逸見喜久雄 
毛布一枚重ねむとして怠れば野宿の寒き夢に目ざめぬ          今福 和子
品のなきハクセキレイと見てゐしが後先になり畑を去りゆく       堀江 厚一
テレビの映像消したるあとのしづまりに明日へと続くわが息をきく    梅沢 竹子
高松に行きしは五月のころにして又行きたしと思ひつつ寝る       内田 一枝
太平山荘すぎて山地は秋田領草のいろ褪せ岩くろく立つ         佐々木良一
不定期の買物バスにて町へ行く大根抱へ妻帰りきぬ           山本 吉徳
へうへうと送電線が風に鳴りダムをめぐりて山は暮れゆく        松尾 鹿次
幼子を二人すばやく自転車に乗せて娘の出掛けてゆきぬ         伊藤 和好
応召とは天皇に召されることなりしわが兄二人召されて帰らず      副島 浩史
日毎むかふ垣山にして疎ましくまた親しくもけふは雪降る        尾形 冴子
白式部栄えて紫式部失す美しきものは命短し              三輪 昭園
過ぎ行ける人を眺めてゐるつもり窓際の席に減りゆく時間        竹内 敬子
蓬摘みて遠く来りし山畑に獣の気配して道かけ下る           松家 満子
晩節になほ恙なき暮しありひとりの糧の買ひ出しにゆく         鈴木  功

◆作品2(6名の選者による選歌欄)より
あと二十日生きて新しき年むかへむと老のからだにラジオ体さう     竹田志げ子
髪切りて若くなったと人の言ふ吾が百歳を忘れてしまふ         吉田 寿美
体温計を脇に挟みて見詰めゐる壁の時計の五分は長し          横山 昭夫
ほろほろと南天の実がこぼれ落つ離れの沓脱ぎ石のあたりに       斎藤 康子
秋の日のかげりの早き山の田に小さぎ降りたつ季節となりぬ       石田 孝子
通勤に挨拶交はすガードマン今朝より赤きマフラー付けて        出口 祐子
読みかけの本を片手に窓に寄る雨の降り出で暗みゆく部屋        藤井 博子 
川鵜等に追はれ浅瀬に来る鮎を次々と食む小鷺青鷺           横田 時平
法被着る老いし男らの焚く大根よそひくるるも皆男なり         髙橋あや子
ねんごろに仲買人らをもてなして冬季のしめぢの販路依頼す       倉科 悦男
三時間断水するとふ手近なる鍋にバケツに水汲みて置く         前田つる子
馴染みたる歌会やむなく去りゆくも残れる者も共にさびしく       伊吹 泰子
惨たらしきニュース細やかに報じられ私は見たくも聞きたくもない    丸山 倫江
夫の腕抱きて上る姫路城つづく石道時間をかけて            羽仁 和子
作物の予定なければ耕さぬ畝にいつしか草も生えたり          福本 和夫
子に米を送る程良きりんご箱スーパーより夫の持ち帰り来ぬ       池本 捷子

◆作品3(6名の選者による選歌欄)より
我一人を乗せて音なくのぼりゆくエレベーターの虚しき広さ       井上由美子
収穫を終えた刈田で藁を焼く煙は這いて人影を呑む           亀田美津子
目覚めればほのかに障子あかるくて予定なき日の幸せなとき       宮﨑 越子
豊かなるパンパグラスの穂の揺れて栗名月を斜めに見上ぐ        向井よし子
さてけふの夕餉は何と炬燵に座る夫ありて過ぎ来ぬ五十幾年       福島 五月
刈り取りの終へし田圃に黒きシャツの案山子が畦に寝かされてゐる    堤  雅江
足病めどまだまだ畑は打てるぞとツタンカーメンの種を播きたり     荒木 英市
妻の足背を揉み三年近頃は頭も揉みて技量上がりぬ           堤  恒平
来年のことには触れず裏畑の仕事仕舞ひに黒豆ちぎる          宿利はるえ
遠くまで治療に通ふ朝の道明けの星一つひかり輝く           石川 香果
冬陽さす窓辺明るくぬくもりて水栽培の蕾勢ふ             伊勢喜佐子
荒あらと伸びたる茎に薹立ちてま白き人参の花の開きぬ        佐々木知津子
終に終に好きになれない人のあり三千ページの小説の中         渡辺  涓
ほそほそと鳴くコホロギを聞きながらわれは湯船に目を閉ぢてゐる    小濱 靖子
玄関を開くればふかき靄のなか臙脂の寒菊しづまりて見ゆ        佐藤テル子
山茶花の花びら集めゐるときに風吹きゆけり霧を乱して         矢森 妙子
わが叔母の作りくれたる半纏の裏地の接ぎも親しみて着る        大墳 淑子
烏瓜の赤き実二つ裏庭にころがりてをり嬉しく拾ふ           松田 玲子
ひたむきな願ひに意志の通ふらしこの会ありてわれも励みぬ       三輪 武士
今年こそ会ひたいですね一昨年も去年も賀状にひと言添へる       伊藤 章子
早番の子を送り出し未だ六時大根と鮭煮るとろ火にかけて      故 岡野 紀美
せせらぎをテープで流しゐるビルのロビーに長く人待ちてをり      花田 順子
雨止みて水平線の彼方から空を横切り虹のかかりぬ           細矢理恵子
玄関に夫より大きな靴脱ぎて幼顔せる孫の来にけり           伊東 芳子
肺癌を病みてすでに半年なり髪を染めよう明日はクリスマスイブ     塚本佳世子
どうみても爺さんだよと妻言へど構はずさらに石段のぼる        古島 重明
夕映に鳥は染まらず黒々と群をなしつつ遠く去りゆく          大塚 道子
その昔戦争といふ惨ありて君等も僕も生きてゐる不思議         黒部 一夫
ぽたぽたと涙は落ちる鎌の柄に燃ゆる紅葉の目に痛きまで        吉沢 真理
鰊寿し喜ぶ弟亡けれども心励ましひと桶漬けぬ             西谷 時子
二時間に列車一本の時刻表小さき木造駅舎の壁に            苫米地和江
年金を振込みてゐる銀行よりささやかですがと数の子届く        中津留初枝
父親の奥の金歯の一本を片身に今も御守りに持つ            藤原 清次
改装せし部屋の欄間に吾が画きし向日葵の絵を掛け直したり       今川 茂子
障子紙の張替勧むる広告紙貼れなくなる日のために取り置く       如月 生子
古里は竹の里とふ遍路道道の両側竹生ひ繁る              十河 俊子
不細工なわが家の蜜柑味がよく夫と二人でたっぷりと食ふ        西風 諒子
一歩一歩転ばぬやうに踏みしめて廊下を歩むお風呂に入る        細川 房代
2016.02.07 2月号の歌
道頓堀2月となりました。毎年のことですが、逃げる~ってことにならないように…。
ようおこし仕事はなんとか順調にいってます。いろいろなことの歯車が合うようになってきたのかフリーとはいえ毎日仕事に就けています。定位置で仕事ができるので気持ちも安定してきました。
今の職場は慣れ親しんだキタのエリアからミナミのエリアに移りました。未知のエリアです。今までの大川端から道頓堀へ。地下鉄沿線というのも初めてです。地下鉄のトイレは「ようおこし」大阪らしさが濃いエリアにきたってことですね。


「青南」2月号(第19巻第2号)掲載
◆作品1
また何時もの楽が聞こゆる午後の五時雨戸を鎖すと立上りたり      清水 房雄
朝早く路地に来て鳴く鴉一羽まだ鳴いてゐるしつこい奴だ        清水  香
吾が呼吸二十四時間測定し精密なる図刷りて持ち来ぬ          伊藤 安治
転ぶことありてはならぬと思ひつつ一歩一歩を踏みしめ歩む       逸見喜久雄 
唐松の落葉音なく降り積る道遠くゆく夫のかげ見ゆ           今福 和子
鳥の声風の音絶え白々と林をこめて山霧がうごく            鈴木 登代
稲了へし田に光みち浮びくる何事もなき今日の日ぞよし         堀江 厚一
時の間の仕合はせは今花のなき小公園に肩を寄せ合ふ          豊田 純子
柿一つ蜜柑いくつか置いてある食卓のあり帰り来れば          梅沢 竹子
胡瓜切る味噌汁つくることなどはたやすけれども面倒になる       内田 一枝
太平山荘すぎて山地は秋田領草のいろ褪せ岩くろく立つ         佐々木良一
一陣の風にもみぢの散りかかる赤く染まれる太樹の下に         能見謙太郎
日は更に短くなりてあたりみな黄に輝けりわが生れし月         佐藤 東子
祖谷そばは太く短く芯強しつなぎ入れざる十割そばか          前川 昭一
議事堂前にデモ一万人お巡りさんも本当は反対だと思ってゐるわ     戸田 紀子
この街の雨に濡れつつ微量なる放射能のことをわれは思へり       籏野  桂
病む君が左手使ひ震へたる「逢ひたし」の文字 最後となりぬ      根本  正
柚子取らむと目がけて伸ばす竿の先青き空あり老いにさやけ       尾形 冴子
むかご飯作らむとして塩加減を娘に電話す一人となりつ         三輪 昭園
川そばに住むとふ歌人のそれ以上知らぬまま過ぐこの浅き川       竹内 敬子
幾つもにちぎれし雲よわれら乗る大観覧車はいま天辺に         監物 昌美
水かさの雨に増えたる滝の音黄葉の谷にしみて響かふ          長弘 文子
今さらに望もあらず温かき両手を胸に置きて眠りぬ           松家 満子
心地よき発電の音響かせてソーラーパネルは太陽を待つ         山本 靖彦

◆作品2
不慣れなるわがオルガンの伴奏に聖歌の声の御堂に響く         中谷美智子
縫ふ時のいつかあるかと貯めおきし型紙を焼く一枚一枚         水谷 節子
ひと夜かけ降りたる朝の靄たちて色づくみかん山をおほひぬ       濱武ケサエ
楽しみは通販雑誌の範囲にてすこし生き方変へねばならず        佐藤 昭子
このわれに逢ひたく思ふ人のため海辺に白き貝殻を拾ふ         東海林諦顕
大阪もフランスも我には同じこと手帳に夫の「出張」とのみ       出口 祐子
芋ひとつ落ち葉焚く火に埋めたり風ゆくたびに燠赤々と         吉沢 真理

◆作品3
暖かき日々の続き干し柿は二つを残し乾かずに落つ           釜野 清信
お役目を終へたる案山子担がれて野の細道を帰りくるなり        井上由美子
新しき眼鏡かければ新しき我と出会へり秋の鏡に            佐々木容子
リズムあるテニスボールの音ひびく道を姉らと歩むみ墓へ        榎園 隆子
共白髪と建てし住処に夫の亡く独りの厨に鍋煮えたちぬ         外園 治子
小指ほどの小さき莢もみな採りて冬に入りゆく畑片づけぬ        河野 政雄
四季の花常に咲きゐる花畑が避難路になると聞きて佇む         石川 香果
運転は罷り成らぬと妻固くわれの愛車を他人に譲る           小林 秀章
先立ちて妻は逝きたりコスモスのこぞり咲く日に揺れ咲ける日に     大室 外次
段取りを考へるさへ楽しくて今日は菠薐草を一列蒔きぬ         金沢 宏光
乳ガンの医師の触診待つ間隣り合ひたる人らと語らふ          菊地 幸子
かの時の心の在りやう想ひつつ古き詠草なほしてゆかむ         二階堂易子
汚染土を埋めたる庭の黄の標目立ちてをりぬ降る雨のなか        矢森 妙子
合図は何椋鳥の群一瞬に大きくうねり向きを変へたり          大塚美佐子
この筆は狸の尾とか野を駆けし日々のありしか強き弾力         小出美恵子
体力の衰へゆくをかなしみつつわれに課せられしことは果たしぬ     三輪 武士
カタカナ語の解らぬままに読み終へし新聞の角を揃へて畳む       岡野 紀美
仏前の脇の卓上カレンダー義母逝きし月のままに置かれぬ        細矢理恵子
「吾々は何れ死ぬのだ」木々の間の美しき夕陽を限りなく見る      栗原 義一
少しづつ新しい暮しになじみ来ぬ母と語らふ時長くなる         藤井 博子
さくさくと又かさかさと踏みてゆく欅落葉の音楽しみて         大塚 道子
きらきらと春の光を浴びて立つ辛夷の花の満開の下           藤  繁子
秋日和なにかいいことありさうな郵便バイク近づいてくる        吉田美代子
体調を夕べ夕べに聞きに来る娘を鬱陶しいと思ふ日のあり        紙谷 孝代
大腸ガン案じゐし夫異常なし芋菊入れし鯛飯を炊く           安原 律子
咲き香る小菊の花束かかへ持ち里芋をリュックに娘来りぬ        伊吹 泰子
何回も確かめ確かむ最新の電子システム券売機の前           畑 佐知子
わが家のコンバインは二十年幾度もつまりて稲を刈り来し        板谷英一郎
時折に甘えるやうに鷗鳴く波止場に長く海を見て立つ          山本 昌子
2016.01.12 1月号の歌
金の大黒さんおせち2016年がはじまりました。今年もどうぞよろしくお願いします。
暖かいお正月でした。このまま暖冬なのかどうか、雪のないスキー場がテレビに出ていました。冬は冬らしくあってほしい。おそろしいことがおきなければいいですが。
12月から、仕事をはじめています。社員を諦めフリーランスを選んだので、思うように仕事が続くかどうかわかりませんが…。とりあえず「貴殿のより一層のご活躍をお祈り申し上げます」の字面に傷つくこととはさよならすることにしました。不採用通知の束は50を超えたときから数えてませんが、1通ごとにただへこむ。全く必要とされない自分の存在は収入の無いことよりもきつい。
何とか明るい年にしたいものだと思います。

「青南」1月号(第19巻第1号)掲載
◆作品1
梢伐りし庭の木々みな涼しげに風にそよげり雨すぎし宵         清水 房雄
親しくもなかりし昔の同僚が夢に出て来て頻りにしゃべる        清水  香
散らしし部屋しばし見てゐし弟は決意せし如く片付けはじむ       伊藤 安治
ガラス戸に細かなる雨流るるをしばし見て吾も椅子に戻りぬ       逸見喜久雄
カインズの安物なれど新しき熊手はよろし柿の葉を掃く         堀江 厚一
秋の日の光の中に読む事の幸せ思ふ九十二歳              庄司ゑい子
病院の不浄口出でて茜空広がる方へ妻に付添ふ             能見謙太郎
風にそよぐ群生尾花に月差すときけば翔らふ阿蘇の原野へ        山本 吉徳
会ふ度にこれが別れと言ふ姉のさばさばとして九十六歳         高木  正
車掌さんに着きましたよと起こされて帰り行く道月の清けし       佐藤 東子
坐りゐるふたりの影が夕の日に三汀句碑の前に伸びゆく         根本  正
丈高くほととぎす咲けりまとはれる虫の羽音のかすかな真昼       尾形 冴子
穫らないで実を楽しみにしてゐます柘榴に下がる短冊一枚        竹内 敬子
梅の木にあした高啼く百舌鳥一羽冬の野菜のつぎつぎ芽ぶく       松家 満子
朝々に頭の上に啼く烏お前より私の方が悲しい             海野 美里
誰れも居ぬ墓処にしばしの時すごす一人の時間二人の時間        嶋 富佐子

作品2
連なりし阿讃山脈霞む見て東に遠き里を恋ひたり            竹田スミコ
日の落ちて心急かるる川土手に風白々と葛の葉を吹く          水谷 節子
補植する手を休めては仰ぎ見る青くかげれる石鎚の峰          丹  亮子
ホトトギス花壇いっぱい茂りゐてあやしげな花とわれは見てゐる     堤  雅江
生も死も一時忘れ点滴の下にひたすら鉛筆運ぶ             横山 昭夫
ゑのころ草くるくる回し歩みゆく阿呆かいまだ能天気みっちゃん     眞野 ミチ
パソコンに初めて送る国勢調査少し味はふ新しさかな          藤井 博子
奇っ怪なかたちのゴーヤわが庭にふれんばかりに太りゆく日々      古島 重明
夫の居ぬ寂しさあれど草紅葉見つつ歩みぬ丘の上まで          大川 文子
岳樺の幹白々と明けてゆく森は鳥海の裾野につづく           髙橋あや子

作品3
牛五六頭秋の日を浴び草食めりコスモスの咲く大山裾野に        平井 和枝
草刈機で刈らねばならぬほど草を伸ばすことなく父母の過ぎ来し     板谷英一郎
里芋の試掘りせむとて茎切れば水あふれ出で芋の香の立つ        藤原 弘子
子らとゆきし東京の旅思ひつつ庭に草ひく今朝は晴れたり        今川 茂子
無事故にて五十年余を無違反で米寿になりて車を撫でぬ         大本 栄子
使はせて頂きますと呟きて義母の形見の帽子被りぬ           如月 生子
特養にも季は移ろひ膳の上に栗釜飯と熟れし無花果           田井 恵子
夏休み小学生の孫達が大人の話に加わる食卓              亀田美津子
母の介助終へし安堵の夜の道金木犀のほのか匂へり           佐々木容子
目覚むれば今日為すことを順々にしるして消して少しはかどる      白鷹 英子
小綬鶏の声弱くなる山の道落葉踏み行く音を楽しむ           藤代 幸子
七日ぶりに青空の出で杖をひき彼岸花咲く田の道を行く         藤原 亘子
洗ふもの今日はないかと夫の言ふ洗濯機操作忘れぬために        山田 和子
歩かねば足の弱ると出で行きし母いま路地を曲りゆきたり        河野 政雄
友よりの鮎一人居の卓に載せ夫も釣りたる在りし日思ふ         中山 圭子
花どきをすぎし鶏頭ほのぼのと赤をともせり日陰の庭に         熊谷由美子
仕舞ひにはいつもわれらを煙に巻きし父は静かに目を瞑りゐし      斎藤 康子
何もせずひと日過ぎたり秋の日をもったいないと思ひながらも      大友 サタ
どの指も曲がりて太きわが指にハンドクリームたっぷり付けぬ      丹治 廣子
途切れたる話のあはひカラカラと浅蜊汁の音二人の朝餉         平野 明子
秋の日のあまねくそそぐ田を分けて「さくら公園通り」開通したり    大倉 恵子
風のなき虫干し日和躾糸つけしままなる着物を干せり          田中 貴子
麻痺残る父と腕組み歩みゆく東海道線のホームの長し          出口 祐子
耳遠き吾に聞えぬ虫のこゑ夕庭の木に風は冷たく            牧野 博之
足軽く朝焼け雲の下の道独り行くのも楽しかりけり           栗原 義一
秋深し我が誕生日は文化の日難病二つ抱へて傘寿            塚本佳世子
台風は事なくすぎて夕暮れの東の空に大いなる虹            横井 勝子
木の子めし炊きて夕餉に子を招く年相応に妻は振舞ふ          上條 竹芳
徒に今日も生きたる証なり天気記せる一行日記             倉科 悦男
かなしきを言ふまいと噤む我なりき洗濯機は生き物のごとく働く     吉沢 真理
電話などなき時代にて下宿より父母と交せし五円の葉書         桐山 五一
斑鳩の野焼きの煙ただよへる店に夫ととろろそば食ぶ          伊吹 泰子
離れ住む孫の佳き日の決まりたりはればれとして深く眠りぬ       川上 幸子
ハロウィンのカボチャは笑ふ街中のいたる所に蝙蝠従へ         伊藤 章子

2015.12.12 12月号の歌
サンタがいっぱいメリークリスマス今年最後の月となりました。先月から言ってる割りには全く年賀状の準備もしていない。ただどんどん時間が減っていく…。毎日寒かったり、変に気温が上がったり、大雨だったり大風だったり…。安定しない天候は12月らしくないといえばない…ですね。
まあ元気が一番、風邪などに召さぬように、なんとなーくするりと新しい年を引き寄せたいものです。
青南12月号、巻末の総目録を見ると1年みんなで作り上げたという感じがしてくる。でも、個人的にはあまり貢献してないか、私…。来年はもっと頑張りたいものです。

「青南」12月号(第18巻第12号)掲載
◆作品1
読みし読まざる本の数多を売り払ひ心さばさばと鮨屋に入りぬ      清水 房雄
動かしてくれし椅子より眺めゐる薄雲白く棚引く空を             清水  香
転倒し額は大き瘤となり鏡を見たるわれは驚く                伊藤 安治
高原の雨雲の下飛ぶ鷺の大き二つのかげを見送る             今福 和子
いつまでも夏の夕べの暮れぬ空ひとりの夕餉長く坐れり          鈴木 登代
窓ガラスへだてて車の中と外声なくただに見つめ合ひたり         豊田 純子
道草の穂も枯れいろに変りゆく人より静かな草のなりゆき         梅沢 竹子
シーツ替へ寝巻着換も今日二度目固まりし妻の腕に時かく        能見謙太郎
汝が笑めば吾の心もほころびる汝が喜びはわれの喜び          山本 吉徳
もっと削れもっと削れと繰返し言はれたる日もとほくなりたり        松尾 鹿次
街あかり雨の甲州街道を京王電車が横切りてゆく              戸田 紀子
診療を終へ腰のばす西の窓あの世はあると思ふ夕映え          根本  正
コンクリートの階段下る地下道に木犀の香の流れ入りをり         上山 篤義
紅き石青き石あり谷底の流れに沈む地球の断片               尾形 冴子
皆人の去りて一人となりし部屋白磁の骨壺両の手に抱く          海野 美里

南山集
さむざむと雨の強まるにもあらね帽子を出して深くかぶりぬ         伊藤 和好
昨日今日明日に続く高き空蟻川岳の峰は際立つ               長田 光代
あかつきに虫の音ひびく床の中小さく老いて妻の眠れる           金子 侑司
よくきみと待ち合はせたね店の名はパルケだったかペルケだったか    竹内 敬子
浴槽にて眠ってなんかゐないぞと唄ふ唱歌をとぎれとぎれに        古島 重明
安保法いかに説くとも来る日来る日雷管にはりつきし少年まだ生きてゐる 堀江 厚一
行きてまた今来た道を戻りけり呆けしやうに花も摘まずに           吉沢 真理

作品2
汗の染み黒くなりたる麦わら帽子被りて今朝も畑に出で行く         福本 和夫
小さき手は小さき手の音産土の神に響けり茅の輪くぐりて          井上由美子
公園の桜黄葉は散り始め木陰つくりし枝の透きゆく              山田 和子
うたた寝の夢に会ひたる亡き夫はつば広帽子被りゐたりき          外園 治子
心わづか昂ぶりながらこの部屋に午後は退院の飯を食ひゐる        横山 昭夫
青空に豊かに実る幾百の紅き林檎は海風受けて                石川 香果
いそいそと秋刀魚の刺身をつくる夫ゆふべの厨に大蒜にほふ        丹治 廣子
まだ出来ると思ひて始めしうどん打ち幾年ぶりかおいしくできぬ       細野 幸江
菩提寺に何時の間にやら際立てる白きもまじり咲く彼岸花          伊藤 章子
青く澄む空に立ちたる白雲の光やはらぎ秋は来にけり             西谷 時子
十余年着けることなきモンペ穿く木綿の匂ひ残りてをりぬ           紙谷 孝代

作品3
百歳と二日の先生すいすいと杖を片手に階段昇る               山口 暁子
苦悶消え逝きし横顔清らなる妻よ朝明けの光のなかに            北村  良
暑き午後出かけむとして久々にさす口紅の溶けて折れたり          伊吹 泰子
新型の手押し車が今日届く背筋伸ばして歩みてゆかん            丸山 倫江
十歳は若く見えると誉めたれば父は毎日髭を剃りをり             板谷英一郎
長雨を伴なひながら秋来り洗濯物は三日吊るさる                寺谷 和子
雨つづく裏庭少し耕して秋の野菜の種を落せり                 福田 美蔭
いよいよに昔話に近くなる九十五歳の母と狸と                 村上 良三
萩焼の揃ひの湯飲夫の亡き今も使ひて並べて置きぬ             荻谷 理枝
草萌ゆる小川に追ひしほたる狩り暗渠となりて草の無き川          橋本津多子
うたた寝の夫のつやつや光る脚見つつ湯上がりの髪を乾かす       羽仁 和子
マンゴーを掌にもち思ふ軍事便に甘しと書きし防人の父           森元 輝彦
われもまたインターネットで参加せり安保関連法案反対表明        長坂 益子
少年の網で掬った川海老のしばらく跳ねて魚籠に収まる          亀田美津子
留守の間に豪雨襲ひし裏庭に流れ来し草の堆く積む            東倉紀美子
記憶よりゆるやかなりしふる里の寺の坂道通りて来れば          檜垣 敏子
変な声で鳴いてゐるねと孫の言ふ夜の川よりひびく牛蛙          松下 恭子
地下鉄駅へ帰りゆく我にまだ聞こゆ議事堂前の抗議の声が        河野 政雄
長けし草小暗きまでに茂りをり人住む気配なき家の庭            金沢 宏光
雨の午後昼寝をしたるつかの間にわれすたすたと歩きゐる夢       菅生 綾子
ラベンダーの色香漂ふ湯に浸り眼つむれば広がる富良野          二階堂易子
長男は履き良き靴を買ひくれぬ子どものやうにわれは嬉しき        三輪 武士
記念日をきっと忘れてゐるだらう夫にプレゼントの靴下を買ふ       細矢理恵子
雨に打たれ夏水仙の競ひ咲くけふも尽日母と向き合ふ           藤井 博子
市役所前を過ぎむとしつつ「戦争と静岡」展に足をとめたり         奥東 富子
安保法成立の朝刊仕舞ひ置く今朝の私にできることとし          苫米地和江
バス一本乗り遅れて待つバス停にわが影ひとり長くのびたり        田中 芳子

作品4
ホテル並みの病室をよろこぶ妹は明日三度目の手術を受ける       喜田恵津子

2015.11.13 11月号の歌
上空いつのまにか、というのがあっているのかどうかわからないくらい、いつのまにか11月となり、気づけばそれも半ば。年賀状の事を考えなければならないことにふと気づいたり、街のクリスマス仕様のディスプレイに驚いたり…。
10月31日(土)と11月1日(日)とで山形へ行ってきました。1泊で山形はきついしもったない感じですが、なんと相棒の今年最後の休日というわけで頑張りました(相棒が…)。
最上川最上川を見ること、1日からの新蕎麦を食べる事、Benさん夫妻に会うこと、Benさんの菊展を拝見すること、温泉に入ること、高橋恵一さんのお墓参りに行くこと。短い時間なので目的を絞って、達成してきました。BenさんKanさん、ありがとうございました。楽しかったです!

青南11月号。この頃ちょっと思うんです。青南の歌は全体にレベルがあがっているのではないか。清水先生は10年前とみんな変わらないといわれましたが、少し変わってきたように思っています。きっと特別歌会用の詠草がよくないのだろうと思います。

「青南」11月号(第18巻第11号)掲載
◆作品1
青き花白き花さかりのさ庭には四月時ならず降りしきる雪        清水 房雄
先駆けて一つ咲き出でし野牡丹の花を宝の如く見てゐる         清水  香
固き野菜ジュースにせよと送り来ぬ手にとれば軽しミニミキサーは    今福 和子
暑き日もやうやく暮れて俎にもの刻む音きく夕なり           鈴木 登代
眠り足り足らぬともなく出でて来ぬけふを限りと迫りし用に       梅沢 竹子
みぎ方へ落ちゆく流れ過ぎて来てここは左へ水奔りゆく         佐々木良一
再稼働はばむと節電に努めしが駄目ねと妻は日を仰ぎいふ        山本 吉徳
燕の子日に日に大きく成り行くを朝見て昼見て夜も見に行く       松尾 鹿次
グロットの真青き潮を透る陽の光ゆらゆらと吾が心射る         河合婦美枝
面白く枕草子風に言へば「困りたるもの」髪爪伸びる          谷河八千代
茄子ピーマンささげも喜び盆の日を西へ東へ帰りてゆきぬ        長弘 文子
三十年かけし保険の満期今日補聴器一対わがために買ふ         伊藤登久子
相見しより七十年を共に生く七十年はたちまちにして          海野 美里
夏の日に熱く乾きし畑の土汗滴りて草を引きゆく            山本 靖彦

◆南山集
大橋を渡る今朝も暑き中かなしみよ過ぎよ忘れよと歩く         金子 侑司
島に宿り短歌を語り夜を更かす語るはたのしうたふは難し        監物 昌美
根を掘りて金に換へたる時期もありぬ今かくばかり美しきは何      小林喜代廣 
見下ろしの街に青野に霧こめて御生憎様と君の言ひしも         高木  正
のびのびと枝広げたるネムの花一樹の上に紅き花園           瀧本 慶子 
祓ひたまへ清めたまへと唱へゐしあのホームレスに近頃会はず      竹内 敬子
何もせねば傷つくこともあらずして酷暑の夕を抜けてゆく風       堀江 厚一
時間といふ観念が吾をも過ぐるらし私(わたくし)はいま母を喪ふ    吉沢 真理

◆作品2
西空より広がりてくる夕焼にトマトハウスのなかみな朱し        前田つる子
川ふたつ水面の色をしばらくはそれぞれ残し合流してゆく        木村 玲子
盆来れば祖父母生まれし天草を望める墓を清めて参る          小島 魚水
薄雲に見え隠れする白き月いつもの道を行きつつ寂し          森合 満江
卓の上に咲き極まりし芍薬の白妙は散りぬかすかな地震に        鈴木八重子
かにかくに盆を送りて安らぎぬ屋根打つ雨の音に覚めをり        池谷 久子

◆作品3
歩けざる日はいつか来るその日まで歩きつづけむ歩くは楽し       桐山 五一
崖ふちに並び建ちゐる温泉宿冷ゆる空気の心地よかりし         中津留初枝
朝より高校野球のテレビ見る夫は幾度か目薬さして           伊吹 泰子
ふるさとの墓地に飛び交ふ糸とんぼしばらく静かに見守りゐたり     畑 佐知子
名も知らぬ白き小さき花の咲く畑をひとりで耕しにけり         板谷英一郎
傷みし須屋新しき須屋と並びゐて荒神遷宮始まるを待つ         江木 正明
目を通すひまなく一日過ぎゆきて置きざりのままの今日の新聞      難波 澄子
運び来し水二百リットルを里芋の溝に分け入れ汗拭ひたり        藤原 弘子
こぼれたる種の芽生えし鶏頭の赤き葉群れて墓のあかるし        村上 良三
吾があとは荒れゆく丘の畑かと海を見ながら耕して居る         福本 和夫
さくらんぼ来年も買ってと言はれれば生きねばならぬと思ひてもみる   白鷹 英子
道場の毀たるる日の近づきて汗染む薙刀四十本運ぶ           福島 五月
八月の白々照れる昼の舗道電動車椅子にてゆっくり帰る         有明てるみ
折々に卓の新聞めくり過ぐ青田吹く風裏背戸の風            宿利はるえ
左肩の上らぬ今年この松の剪定は手の届くところまで          河野 政雄
水中花おづおづ開きひとゆらぎ大きくゆらぎ今定まれり         齋藤しづ子
嵩上げの工事の進む市街地にかけ声響く七夕の山車           後川安希子
よもすがら降る雨音にうつし身のわれはしばしは眠らむとす       東海林諦顕
幸ひに名物弁当在る側にエレベーターは止まりくれたり         神田 俊三
コロコロと今日は三つ目アスファルト蝉はほんとにさっぱりと死ぬ    和泉 南雄
新しき気象衛星の写し出す白く渦巻く台風三つ             伊東 芳子
オリンピック迄は生きると老い耄れが河川巡回今朝より始む       横田 時平
どうでもいい事は聞えて肝腎な事は聞えずなりてしまひぬ        池田 幸男
兄の部屋美代子来た日と書かれゐてそこだけ目立つ九月の暦       吉田美代子
2015.10.14 10月号の歌
ハロウィーン10月、それももう半ば。先週末は東京で青南の特別歌会があり2泊3日の上京でした。
このときとばかりに東京国立近代美術館で藤田嗣治コレクションを鑑賞。一度大作の戦争画を見てみたかったのですが、想像外の激しいもので驚き、また東山魁夷や岸田劉生や靉光などの作品を見ることもでき、満足以上の時間でした。
美術館へは東京駅から皇居のお堀端を歩いて行ってみました。そして美術館からホテルのある御茶ノ水まで神保町を通っていけるというのもわかり、楽しみながら東京の地理を堪能。いつもは迷うのが怖くて地下鉄ばかりだったけど、案外行けました、歩いてみるもんですね。(街角のハロウィーンのデザインを見たり…。)朝はtokoさんに東大の三四郎池に連れて行って頂いた。池周りが上がり下がりの段差のある道で、小説とは違う雰囲気。体感しなくちゃわからんことがあるもんだと、面白かったです。

「青南」10(第18巻第10号)掲載
◆作品1
歌詠むを生涯の大事と思ひゐし此の錯覚の何ゆゑならむ         清水 房雄
時々に机の上にのぼりくる小さな蜘蛛は少し太れり           清水  香
その前の時代を知れば戦はぬままに過ぎゆくことを願へり        伊藤 安治
丸々と太りパセリを喰ひつくし今朝青虫の行方知らずも         今福 和子
沖縄は世論が歪んでゐるなどと言ってる我らが歪んでるんです      山本 吉徳
瀟洒なる三階建の塀に寄せ小さな祠あり何を祀れる           佐藤 東子
ここからは各駅停車になりにけりさらば伊勢路を楽しみて行かん     前川 昭一
転がり出でし鉛筆一本勤めゐし頃の社名の刻まれてゐつ         戸田 紀子
子育てと同じだなあ隠元のつかまり損ねし蔓なほしやる         根本  正
大阿蘇の思ひ出遠く草千里広々とせる大地に立ちき           谷河八千代
薔薇園の花の高さに押されゆくはじめて園に乗る車椅子         上柳 盈子
苗を立て薬をかけて育てゆくこの黒豆は新年のため           山本 靖彦

◆南山集    
午前五時明けそむる空を鳥はゆくひとつ行き二つゆき三つは行かずも   小林喜代廣 
山手線見えなくなりて日傘差す御婦人一人坂のぼりくる         伊藤 和好
もはや咲く力なきかと見えしまま梔子枝に白く花立つ          瀧本 慶子 
なるやうになるとのみいひ鉛筆の削り屑捨つ確かに木の香        竹内 敬子
どこからか祭り太鼓の音すれば我はいつでも飛び出す構へ        谷生美砂子
五種類の薬のむなりどこに如何効くか知らねど朝のつとめに       古島 重明
手を添へて花びら開きたれば咲きマンデビラにほふ白きひと花      堀江 厚一

◆作品2
ほととぎす天辺かけたかと人の言ふ我は包丁(ほつちょう)欠けたかと聞く 平野しづえ
三日前の作業一々思ひ出しくり返し探す小さき箆を           角谷 明子
羽失せて姿留めず押入れの奥に見つけし明治神宮守護矢         平尾 輝子
籠りゐる部屋より眺む台風の去りたる街に朝の陽の射す         竹田スミコ
ひつじ草水面に光るはつ夏の我の心を風渡りゆく            佐々木容子
ギッコラギッコラ畠に通ふ道遠しわれも自転車も古りてしまひぬ    佐々木知津子
山深く筒鳥のなく声聞けばここにわれありと思ふ心よ          三輪 武士

◆作品3
炊き立ての飯に玉子を割る音にありがたうの聞こゆる暮らし       西谷 時子
おしゃれして颯爽と来し妹は桜ん坊置き帰りゆきたり          前島沙江子
川に沿ひ日々歩きゐる歩くこと歩けることはすばらしきこと       桐山 五一
家島の古き町並道細く角を曲がれば猫の寄り来る            中津留初枝
今一度ホトトギスの声聞きたしとラッキョウ洗ふ手を止めて待つ     紙谷 孝代
大雨に増水したる野の井戸に孫と入れたる鯉泳ぐ見ゆ          荻谷 理枝
窓近き山茶花の木に連立ちし雀見えしは束の間のこと          三枝 笑子
ポップコーン屋になりたいと言ふ幼子の願ふ短冊高みに結ぶ       八田 順子
駐車場になると決まりし友の田に熟れ過ぎて黒く麦は立ちをり      髙橋  博
ゆっくりとバスに乗る人降りる人誰もが母に見ゆるたそがれ       堤  雅江
淡き青の修衣を纏ひシスターが梅雨の雨降る教会に入る         榎園 隆子
それぞれの思ひを胸に夕凪の海に沈みゆく赤き日見つむ         泉 多惠子
行く汽車を点となるまで見送りき君にその後会ひしことなく       大室 外次
夢に来る夫の優しき笑顔あり出かける仕草のこしてゆきぬ        菅生 綾子
幼虫が大中小とふとりつつ庭の酢橘の葉を喰ひあらす          富田 陽子
潮香る心地良き風頬に受け船に乗り行く友を見送る           細矢理恵子
幼き日を時折想ふ一こまの鉛色した一面の空              重信 則子

◆作品4
古希だけどわれに歌あり短歌あり書道もありて晴れ女なり        橋本 攝子
2015.09.16 9月号の歌
枯蓮と秋空もう秋9月も半ば、急に秋めきました。関東東北の豪雨災害、お見舞い申し上げます。今までにない雨量、今までにない水位、今までにない…、と雨のみならずいろいろな自然の猛威にさらされています。桜島の噴火も然り、政情と言いこの秋はまだまだよからぬことの起きそうで心配です。
何もせずに夏はゆき、秋を迎え、大丈夫なのかなあ…。通帳だけが大丈夫じゃないっていってるわぁ(*_*)

「青南」9月号(第18巻第9号)掲載
◆作品1
 この庭に色ある物のただ一つ臘梅の花黄の鮮やかに           清水 房雄
 奥の二階照らしゐたりし夕日消え程なく五六軒の路地は暮れゆく     清水  香
 送り来し古書目録の一二冊心を惹けど読む間残らず           伊藤 安治
 命日はきのふ過ぎたりしろじろと野バラは垣になだれ咲きつつ      今福 和子
 目覚め良く体操をする窓外にしきりにゆるる八つ手白花         豊田 純子
 矢車草ではないさうだヒヤシンスヒヤシンスと思ひつく青き花の名    内田 一枝
 をりをりは姿見せつつ鳴き交す藪の中なる二羽のうぐひす        松尾 鹿次
 わさび田を日光きすげを背景に並びし写真皆若かりき          佐藤 東子
 窓ゆ入る梅雨吹く風の涼しきに一枚重ね晩酌をせむ           塩崎 厚吉
 上を見よ五月の空は澄み渡る憂ひ哀しみ何処にか在る          谷河八千代
 桐の花高々と開く五月なり連れたる孫は口笛を吹く           海野 美里

◆南山集
 新しき家を建つると枠を組む土台の工事といふは見飽かず        伊藤 和好     
 百年を過ぎて変らぬ切れ味を誰に伝へむ小さき鋏            長田 光枝
 見るうちに朝の光満ちて来て美しき六月の空となりゆく         小林喜代廣      
 通夜会場を地図に確かめ園田橋渡りゆくとき日の暮れむとす       竹内 敬子
 窓一杯つつじの花はこぼれ咲く母はもいちど立ち上がらうとす      吉沢 真理

◆作品2
 窓近きベッドに母と肩並べ答の出ない未来を語る            藤井 博子
 去年はまだ妻在りてともに仰ぎしよ桜並木の咲き盛る花         桐山 五一
 何となく疲れはてたる心地して嫁の定年数へてをりぬ          角谷 明子
 びっしりと歩道に並ぶ自転車をドミノの如く倒してみたし        山口 暁子
 植ゑ残る苗を腰の畚に入れ田の中ほどへ母の進みぬ           板谷英一郎
 妻とわれ共に病みゐて何を食ふ今朝はわが起き先づ白湯沸かす      荒木 英市
 目眩して厨に膝を着きてゐつ鍋にふつふつカレーの煮ゆる        外園 治子
 一人居には用なきかなと取り出しし出刃包丁を箱に収むる        嶺  暁美
 庭塞ぐいちゐ大樹の片隅に満天星咲きて夜は未だ明けず         横山 昭夫
 天井より吊す明かりに垂れし紐揺れつつ長し夜の地震は         板橋のり枝
 梅雨入りの近づく朝冷え冷えと居間の炬燵のコードを差しぬ       石神冨美子
 それでも三十八年教師勤めたり初のガリ版新しき世界          牧野 博之

◆作品3
 手術日を決めて帰りし夫と我仕事の予定を練り直しゐる         井田さち子
 ベランダの夫のサンダル日々に履き在りし日のごと四年過ぎたり     大塚 道子
 切株に夏の日差の光りつつ長き夕べの時を楽しむ            西本すみ代
 田植ゑ後の水を湛へる田の面に積乱雲が大きく映る           前島沙江子
 差し迫る事情も無くてめでたしとわが口遊む「高山音頭」        野林 幸彦
 ひょっとして九十歳迄生きるかも片足立ちのリハビリをする       小関 辰夫
 潰さうか見守らうかと迷ふうち脚長蜂の巣のできあがる         平尾 輝子
 夫ゆき十年となる表札はそのままかけて十年となる           平田 静子
 鍬に掘るそら豆の根の逞しく土硬ければ声の出でたり          藤原 弘子
 紫と白の花咲きマツリカは雨に籠りしガラス戸の外           福本 和夫
 言葉一つ浮かばぬままに過ぐる日々水張田は白く濁りてゐたり      鹿庭れい子
 雨の日は鬱々として術もなく越路吹雪をひたすらに聴く         加藤 公子
 ハバネラを踊る日近し紫のスカート求め稽古に励む           中村躬枝子
 欠かさずに作る味噌汁甑島沖の伊佐木を今朝加へたり          小島 魚水
 闘ふ気は少し薄れてカセンソウの黒き毛虫の前にしゃがまる       渡辺  涓
 顔を寄せ窓辺に雨を眺めつつ孫とおやつのビスケット食ふ        丹治 廣子
 淡き緑の中に目立つは杉檜山の境が一目でわかる            豊田房太郎

◆作品4
 三階より見ゆる山山は欠けていき積木のやうにビルの建ちゆく      喜田恵津子
 わがために子らの調へくれし家具新しきベッドに今日より眠る      告 紀代子
2015.08.14 8月号の歌
芭蕉像残暑お見舞い申し上げます。
猛暑のピークはさすがに過ぎたでしょうか。とはいえ今日も掃除が終わる頃にはTシャツの色が変わるくらいの汗でした。途中でやってきた宅配便の兄ちゃんがぎょっとしてた…。ちょっとカッコ悪!
芭蕉像2けど暑い時は「暑いね」ってちゃんという方がいいらしいです。夏は暑いものとか、黙ってるのはストレスになるからかえってアカンらしい…。あつい、あつい、あっついわ~
先週は編集会議やら清水先生の百歳のお祝いで東京に行ってました。間にはちょっと頑張って芭蕉が住んでいた清澄の方へ行っていろんな芭蕉像に会ってみたり、隅田川見たり、akiちゃんと上野の美術館へ行ったり。とにかく清水先生にお会いできてよかったです。

「青南」8月号(第18巻第8号)掲載
◆作品1
「アララギ」の残党わづか相寄りて誘へば君に吾は応じぬ        清水 房雄
歪みたるままに鴨居にかかる額漸く直す気になりて立つ         清水  香
紐つけし眼鏡は妻の母のもの出でくればこれもわが使ふべし       伊藤 安治
湧くごとく山々は萌え膨らめり良きときに来て今日友に会ふ       逸見喜久雄
いぢらしと見し小判草道端に日に日に熟れて金にかがやく        今福 和子
ドローンと心は化して故里の野山の上を今宵も飛行す          山本 吉徳
傘たたみ小さきビルのエレベーター見知らぬ人と乗り合はせたり     戸田 紀子

◆南山集
世は進み姥捨山もなくなりて老人ホームあちこちに建つ         阿部  功     
朝霧の晴れゆく谷の寂かにて君丹念に眼鏡拭きゐる           高木  正      
泰山木の大き葉蔭の下に居て今日はとことん眠くてならぬ        竹内 敬子
ふかひれを浮べてひとつコップなり友ありかかる一夜あるなり      堀江 厚一

◆作品2
校庭に摘みて帰らむ夕食の竹の子御飯に添ふる木の芽を         出口 祐子
カート押す吾に優しき人多し心ゆたけく夕日をながむ          金井 容子
洗濯を終へて仰げる朝の空ま青に澄めり吾が誕生日           奥東 富子
筍にゑんどう豆にそら豆のごはん日毎に春深みゆく           畑 佐知子
あの世から頑張るわれをみてるだらうか父の遺品も少なくなりぬ     森元 輝彦
萌え出でし雨後の蕨のやはらかし羊歯を掻き分け摘みてゆくなり     丹  亮子
活気ある靴音聞きつつバスを待つビルのあはひの天満宮前        福島 五月
小学生に『ビルマの竪琴』読み聞かせ共に泣きたり昼の休みに      南 美智子

◆作品3
四月八日雪となりたり降りながら溶けゆく雪の一日続きぬ        豊田房太郎
柿若葉かがよふ朝の空澄みて夫の寝具を日の下に干す          野口久仁子
水替へを怠り死なせし金魚二匹桜の根方に深く埋めたり         花田 順子
ひもすがら青一色の空と海体の芯まで青く染まれり           加瀬 雅子
片栗の花の終りて静まれる林に金蘭銀蘭探す              小久保基子
園児らの声のひびきてこの朝小さき頭を陽が照らしたり         西本すみ代
ひとり来て見下ろす棚田はおだやかな春の陽差しに明るく光る      前田つる子
山あひの村の小さな店に来てさぬきうどんを友とすすりぬ        伊吹 泰子
だんだんと家建ちて来て残りしはわが家の田んぼと隣の田んぼ      板谷英一郎
床の間に鯉の掛軸かけ変へて具足を飾り曾孫を待ちぬ          大本 栄子
ジャスミンはモミジを杖に伸び上り上へ上へと天辺で咲く        十河 俊子
海恋ひてひとり出でゆく五色浜赤青黄色の石を拾へり          東倉紀美子
海は遠く仄かに見えて吾が立てる畑に麦生は風に光りぬ         横山 昭夫
荷沢峠越えゆく風の野の原にあまたの黒牛体寄せ合ふ          石川 香果
われもまた生きねばならず椋鳥の食ひ残したる小松菜を摘む      佐々木知津子
春の日をよろこび住まふ人々の庭それぞれに花を咲かせて        大室 外次
大相撲放送かかさず見てをれどわれの目あては行司の衣装        菅生 綾子
庭先にこぼれし種より芽吹きたるコスモスの苗移し終へたり       矢森 妙子

◆作品4
御主人の無き人にあげようと言ひて下さる芍薬の花           南條 茂子
寂しさに一人の家を出でくれば槻の若葉はみな輝けリ          中山 通子
2015.07.17 7月号の歌
柘榴の実7月に入り異常に暑い日が続いたかと思うと、台風11号です。昨日からずーっと雨です。台風の被害は予報ほどにはならず、高松の高潮の心配も過ぎて、よかったけれど、大阪は余波で降り続いています。
脱皮天気が悪いとだるい。働いているとそんなこと言ってる場合じゃないけれど、家に居ると、まあなんで…というくらいで、無気力になってしまって困ったものです。大雨で窓も開けることができないせいかも。
台風前に蝉の声を聞いてすぐに抜け殻にも遭遇。柘榴もかわいい花が咲いていたと思ったらもう実がだいぶ大きくなっていて驚き…。時はやっぱり流れてる。


「青南」7月号(第18巻第7号)掲載
◆作品1
諸行無常万物流転もそれはそれ今日より吾はつくもの齢         清水 房雄
先程のニュースの事を気にしつつ滑りの悪き雨戸をとざす        清水  香
マンションの向う側すぐ木蓮がいま盛りなり見て来よといふ       伊藤 安治
当然と思ふ手のしみ見てゐたり八十五歳の吾の手の甲          逸見喜久雄
思ひきること出来なくて過しゐるわれをめぐりて夕光濃くなる      梅沢 竹子
水切りの石を投ぐれば春かすむ磐梯山は湖水に揺ぐ           根本  正
伸びすぎし髪切ることも生涯の終りなるべしあらあらかしこ       谷河八千代
枯蓮の池をめぐれるこの時間気づけば何も考へてゐず          海野 美里
箱根山遠くにかすみ風寒きこの駅にひとり乗り替へを待つ        嶋 富佐子

南山集
だらだらと日の過ぎてゆく故里の暮らしも言葉にならざる一つ      伊藤 和好
一時停止のボタンを押して暫し見るビデオに残りし夫歩めるを      小出美恵子
暁の日は差しそめてビルの壁美しきものとしばし見てゐつ        小林喜代廣
半身を見せて清しき岩手山休火山なりと習ひしままに          瀧本 慶子
濡れるといふ感じのなくて頬に受く明るきままに降る春の雨       竹内 敬子
面白くもない顔をして歩きゐる今日は犬にも人にも会はず        堀江 厚一
栓をせしか否か忘れて勤行の半ばに風呂を覗きに行けり         三輪 昭園
さくら咲く胸の中にも記憶にも今生よりも鮮やかに咲く         吉沢 真理


作品2
はて何を見るのであったか電子辞書を開きて聞きゐる耳鳴りの音     横山 昭夫
人通り多きこの街いつ来ても坂を上りて坂を下りて           伊藤 章子
微かなる影にカーソル合はせつつ転移だらうなと静かに言はる      北見 法子
起き伏しに必ず見やるシャガールの青き鳥こそ命なりけり        栄田 瑞穂
燃料を使ひ切るまで草刈りし機械を下ろし身体を払ふ          福本 和夫
芽吹きゆく光と影と柔らかに山は楽しも畑に働く            松下日出夫
二十分厨に立てば三十分炬燵に休みきゃら蕗を煮る           外園 治子

作品3
雨の午後本を繰りつつ思ひをり馬鈴薯の芽の揃ふ日のこと        伊勢喜佐子
さ迷ふはわたくしだけか水仙の傾りにほっこり群れなして咲く      熊谷由美子
波しぶき村を洗ふと思ふまで海に迫れる十軒あまり           小濱 靖子
除染後のさみしき庭にさまざまの花苗植ゑて待つ夕の雨         石田 孝子
セシウムは気にせずに食ふ老いふたりやぶかんざうは歯応へよろし    山内たみ子
香り良き藤の花房下がり来て早や蜜蜂の飛ぶ季となりぬ         鈴木 晃子
早朝の庭に駆け出で蕾食ふヒヨ追ひ払ふ我は何者            出口 祐子
古里の野原で遊ぶ夢覚めて夢のつづきを暫し想ひぬ           大塚 道子
ベランダに朝あしたを数へつつ椿の花の十あまり咲く          奥東 富子
無住寺となりたる庭に今日見るは赤く大きな牡丹二花          中津留初枝
物を言ふ炊飯器また冷蔵庫独り住めるもときに楽しき          山口 暁子
桜散り積れる下にたんぽぽの黄の花咲けり白きも咲けり         伊吹 泰子
あたたかき竹の子めしに貝の汁今宵しみじみ逝く春の味         堀田三重子
学校をよくするアイデア浮かび来て明りを点しメモを取りたり      板谷英一郎
何となく心明るき朝なりし高浜原発再稼働止む             寺谷 和子
目覚めてしばし老いゆく者のさびしさか胸がはらはらはらはら寒し    山本 昌子
戦争を知らざる息子が戦争を知らぬその子に国防を説く         藤井冨美子
変な国核の脅威を三度知りまだ核依存を唱へる首相           長坂 益子
手をつなぎ桜並木を見上げつつ歩めばしばし痺れ忘れぬ         細川 房代
叱られし記憶は遠き日々となり病み臥す父の髪を撫でやる        丹  亮子
葉桜の下につつじの花を見て四月も無職朝散歩す            堤  恒平

作品4
合格を祝ひて作りし餃子百個弾みて食す孫頼もしき           中村躬枝子
2015.06.17 6月号の歌
紫陽花の白山法師の白6月の半ばということはもう一年が半分終わったということ!ほんまになんやらなあ~ 
困ったことです。何もする気になりません。今私にあるのは時間。たっぷりとあって何でもできるのに気が付けば夜になっている。
今日こそはと土屋文明全歌集を開く。書写をしてみる、3日やって、これは私には向いてないと音読に変える。これも3日目に終わった。どうも開く気にならない。今度は過去に頂いた歌集を端から開いてみる。これはなんとなく続く。でも安原さんのを読んでるうちに泣けてきて、気持ちが落ちたのでこれも中断。ある日は黙々と歌を作ってみたが、暗い歌ばかりとなる。現代短歌新聞の私の歌を読んで、疲れてるねと言った人がいた。そうだよ…、呑みに行ってないから?

「青南」6月号(第18巻第6号)掲載
◆作品1
めざめては食べて又寝てめざめては又食べて寝しのみの一日       清水 房雄
朝刊をポストに入れし音聞こえそれより少し眠り夢見る         清水  香
又転ぶ歩みを怖れ時かけて静かに杖をつきてあゆみぬ          逸見喜久雄
耳とほくなりたる夫の聞こえぬときあるらし仕方なしすぎぬ       梅沢 竹子
この狭き村の家いへ向き合ひて林檎の枝張る積む雪のうへ        佐々木良一
折々に吹雪く音する明け方に過ぎ来しことを思ふしばらく        牧野  房
君の乗る連絡船は海境をゆっくり近づく凪ぐ海の上を          尾形 冴子
列なしてよぎりゆきしは何鳥か雲なき空に春を残して          谷河八千代
五車五車とあつめあつめし書画骨董又五車五車とふり捨ててゆく     海野 美里

南山集
金柑をついばみにくる鵯のせはしく飛び去るせはしく来ては       監物 昌美
非国民と罵るドラマ見てゐたりそんな日がまた来るかも知れぬ      古島 重明
今月も行列の病む歌老の歌舌打ちしつつ時に涙す            堀江 厚一
背の懐炉外して母に握らせるただしばらくの温みなれども        吉沢 真理

作品2
みぞれ降る蜜柑畑の水たまり目白来りて水浴びしてゆく         荒木 英市
窓あけて朝の空気を顔に受く老いたるわれも朝はすがしく        竹田志げ子
真向うの集落覆ひし霧たちて薄れゆく様わが窓に見る          嶺  暁美
原子力安全標語の看板を外す映像みじかく映る             佐藤テル子
福島に際限もなき除染ごみわたしは少し忘れかけてた          富田 陽子
不自由になりゆくわれに孫くれし明るい春の口紅をひく         丸山 倫江
少しだけ遠まはりをし塀越しに蠟梅めでつつリハビリに行く       藤原 亘子

作品3
拾ひたる黒き手袋道端のポストの上にわれはのせ置く          堤  雅江
長い廊下三回行ったり来たりして今日の私の運動終る          吉田 寿美
光りつつ川瀬を流るる雨後の水音高々と波立ててゆく          石川 香果
岩壁の修復工事進みたり三・一一近づく浜に              前川 和子
ためらひつつデイサービスに行きし母今日は花びらもちが出てと言ふ   斎藤 康子
草焼きし原を歩めばほつほつと芽ぶき初めしタビラコの青        石田 孝子
庭の土皆掘りおこし持ちゆきて除染といふはかなしかりけり       大友 サタ
四年目の震災の刻犠牲者に黙禱をして歌会再開す            矢森 妙子
西空へ針のやうなる月残し赤城颪はいづこへか去る           鈴木 晃子
吾妻川の瀬音きこゆる旅の宿ダムの流れに音の変はれり         森  和惠
素人が歌を始めて五十年ひと時増えし友らも減りぬ           岡野 紀美
修善寺の出湯の奥の竹林に鶯鳴き交ふ上手に下手に           北見 法子
町に行く我にいくつかの用足せと妻は小さきメモを渡しぬ        上條 竹芳
デッキブラシの音重ねつつ夫と今日雪に汚れしベランダ洗ふ       西谷 時子
谷川の水落つる音高鳴りて野面に緑よみがへり来ぬ           難波 澄子
初物の分葱貰ひぬぬたにせむ湯気たつ笊を外に出したり         荒木 文子
鰤のアラ買ひて大根引いてくるまだ正月の残り酒あり          森元 輝彦
笹むらに風の過ぎつつ笹鳴るを伊予柑選りつつ聞いてゐるなり      髙橋  博
うら若き着物姿のとほりゆくさうかけふは卒業式か           釜野 清信
作品4
痺れたる右手支へて夕支度胡瓜一本押し切りにする           外園 治子
肝臓と腎臓病みゐる吾が甥の声の元気を電話に聞きぬ          南條 茂子


現代短歌新聞6月号掲載
日向ぼこしてゐるやうに見えるでせうしばらく座る八重桜の下      竹内 敬子
夕嵐きみの家の玄関の白バラ牛乳のケースの濡れて
雨音は五月の闇に溶けてゆき土に荒草濃くなる匂ひ
咲きながら雨に打たれて散り敷けり踏みゆく朝の吾が靴あわれ
この先はどこに続いてゐたらうか行けるまで行くふる里の畔